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逃げ道はひとつじゃない  作者: 他紀ゆずる
逃げ道はひとつじゃない
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 近衛氏の自宅は外観も内装もとっても洋風だ。

 家具はアンティークで、照明も煌びやかなシャンデリア風?カップもきっと高いんだよね薔薇模様が目に痛いくらい。

 ここのところどっぷり和風に浸かっていたあたしには、身の置き場が無いっていうか根っから庶民のせいで、腰が落ち着かないっていうか。

 正面に鎮座する近衛母もマダムって呼びたくなっちゃう上品なご婦人で、隣にお祖父ちゃんがいなかったら逃げ出したいほどでね。


「お会いできて嬉しいわ」

 がちがちに固まってたあたしは、おば様の声に大げさな程身を竦ませて顔に作り笑いを貼り付ける。

「ご挨拶が遅れまして…風間早希と申します」

 ああ鬼ババの特訓がこんなに嬉しいなんて、思いもしなかった!

 うるさいくらいに直された言葉遣いも、立ち居振る舞いも、めちゃめちゃ役に立ってる。ありがとーお祖母ちゃんっ。

 ところが、教科書通りの挨拶をしたあたしにころころ笑ったマダム・近衛は、堅っ苦しいわよなんて手を振って。

「そんなに緊張しないで。私もここに嫁ぐまではサラリーマン家庭に育った、普通の娘なんだから」

 近衛氏とよく似た顔で優しげに微笑む彼女は、ちゃめっ気たっぷりにそう言うと優雅に小首を傾げて見せた。

「全然見えない…」

 嘘のような告白につい素で呟いちゃったよ…。

 金持ち特有のジョークだったりしたら、怒られるのかな?バカにするなとかって?


 でも、不安は気分は肯定するおばさまの声で吹き飛んだ。

「事実よ。周りに合わせてたらこうなっちゃったの。でも家の中じゃやっぱり地が出るわね。だから早希ちゃんも普通でいいわよ」

 気軽な調子で、ちっとも気取った風でない、心に気持ちの良い言葉。

「変わらんな、佐和子さんは」

 それを受けたのは何故かお祖父ちゃんで、意外なほど豪快な笑い声を上げるおば様と、なにやら近況報告から始めて。


 2人して、盛り上がらないでくださーい。


 楽しげに昔話に花を咲かせ始めちゃったご両人は、内容から察するに随分古い友人みたい。

 近衛氏だけじゃなく、その兄2人も生まれた頃から知ってるようだから結婚直後、下手するとその前からの知り合いの可能性大ってとこかな。

 しばらく共通の話題で談笑していたんだけど、このままで近衛氏に会えるのかと心配になってきた頃、突然2対の目があたしを注視した。

隆人たかひとがダメなら、大嗣ひろつぐ将彦まさひこどっちでもいいわよ?」

 身を乗り出して問いかけてきたおば様に、こっちは目を白黒させて人名の確認。


 えっと隆人が近衛氏で、大嗣が長男30才、将彦が次男27才だったよね。は?待って待って、みんな独身なの?それ以前に長男てお婿に出しちゃっていいの?

 パニくってるあたしにおば様は大きなため息をつくと、こっちの状態を無視して話し始めた。

「私も主人もね、どれでもいいのよ。早希ちゃんさえ気に入ってくれたら、好きなの持って行ってもらって。それなのに、一番ねじ曲がってる隆人が年齢的に自分が適役だって宣言しちゃったものだから…無理はわかっていたの。あれじゃ気に入らないわよね~」

 おば様、今すんごいこと言わなかった?どれでも持ってけって…最近じゃ猫の子にも使わないですよ、その言葉。しかも近衛氏じゃダメだって家族があっさり言い切るなんて。

 とんでもない貧乏くじを引いた気が一瞬するけど、もうしょうがないわ。あれでいいって決めちゃったんだもん。時既に遅し、です。


「その件なんですけど、この…隆人さんに会わせてもらえませんか?少しお話したいことがあるんです」

 大嗣より将彦の方がってぶつぶつ言ってるおば様に遠慮がちに声をかけると、こちらに不思議そうな視線が送られてきた。本気なのって、引き留めるような確認の。

「会話になるかしら?あの子の屁理屈ときたら…」

 いや、だから仮にもあなたの息子じゃーん!

「心配無用だよ。早希は隆人君に負けておらんから」

 横から会話を引き取って、請け合ってくれたのはお祖父ちゃん。

 ナイスフォロー、ありがとう!

「今日もどうしても話をしたいと頼み込まれて連れてきたんだ。呼んでもらえんか」

 強力な援軍におば様は僅かに逡巡した後、重い腰を上げる。

「大嗣と将彦にも会ってやってね」

 て言い残しながら。


 あの様子じゃ、あたしの相手に近衛氏は不適当と烙印を押しちゃった感じ。そんなに問題児なのかあの人は。

 や、問題児だけど、あの人は。


「佐和子さんはどうしても、風間に近衛の息子をくれたいんだよ」

 あたしの無言の疑問を引き取ってお祖父ちゃんが苦笑した。

「彼女が隆人君の父親と結婚する時かなり反対されてな、二人に助けてくれと泣きつかれた私たち夫婦が、説得と佐和子さんの教育を引き受けたんだ。それに恩義を感じてるんだろうな。自分の息子に同じ事をしてしまって後悔していた我々に、孫娘を引き取ったらどうか、婿が必要なら是非自分達の息子をと、随分親身になってくれた」

 照れくさそうにそっぽを向きながら話してくれた内容は、お祖父ちゃん達が近衛氏との結婚を強引なまでに進めようとした真相で、おば様のどの息子でも持って行けと無茶なことを言った理由に繋がっていた。


 うーん、こりゃ何が何でも近衛氏を説得しないと、余計な婿候補が増えることになっちゃうな。

 事情がディープなだけに全く別の人でとは言い難いし、おば様の力の入りようからしてもお兄ちゃん達の意志はあってないような雰囲気だしなぁ。もう一度あれをやるのか…退屈はしないだろうけど、体力使いそう…やだな、それだけは。よし、こうなったらなんとしても近衛氏を説得せねば。

 パタパタと廊下を歩く音が近づいてきたのに決意を新たにしたあたしは、お祖父ちゃんにちっちゃく拳を握って見せる。


「このえ…隆人さんがいいんだ。頑張る」

「うむ、頑張れ」

さあ第2ラウンド開始だよ!


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