2-8 秘密の遊戯(2)
十月の下旬となれば夜は冷える。
寒いというほどでもないけど、寒くないというほどでもない。
天気予報でも夜の急な冷え込みに注意しましょうと言っていた。
「綾、寒くない?」
「何言っているんだい、春」
「え?」
「風が心地よいじゃないか」
「そうかな」
僕は疑問に思い、そしてすぐに氷解する。
寒く感じるのは、自分がスカートで足を出しているせいだからだ。
「そっか。春は今、スカートなんだな」
「まあ、そうだね」
「で、そのスカート、風でめくれてるぞ」
もちろんめくれているわけがない。
綾が僕をからかっているだけだ。
「綾、こういう時はなんて返せばいいのかな」
「知らないな」
ところで今、僕達は自転車で二人乗りして街へ向かっている。
いつもみたいに漫然と闊歩するのではなく、目的を持って進んでいる。
ただ、何かを発散するような感覚は変わらない。そしてそれは、表層にとらわれない自由を探している気分でもあったりする。
「綾、疲れたら変わろうか」
「いいよ」
とは言うが、綾は先ほどからずっと漕ぎっぱなし。
しかも、スピードもかなり出ている。
風の音が聞こえるくらいだ。
「それよりも春」
「ん?」
「もっとぎゅーしな。危ないからさ」
綾が後ろの不安定さを指摘してくる。
僕は控え目に手を回していたけど、覚悟をきめてぎゅっと抱きつく。
抱きつけば、勉強会での帰りの感触を思い出してしまうかと考えたが、べつにそんなことはないようだ。
「次、左かい?」
「左だね」
「オッケー」
綾がブレーキの擦過音を響かせながら、交差点を左に曲がる。
ここの道をまっすぐ行くと、僕達が向かっている大きな街に出る。
「これでよし、と」
綾が一息つく。
「なあ、春」
「何?」
「ボク達は今、思う存分に自由を満喫していないか」
綾が嬉しそうに話してくる。
「ボクはさ、なんかこういう瞬間がとても好きだ。このなんでもない一瞬がたまらなく愛しく感じる。なんでか知らないけど、大声で叫び出したくなる気分なんだ」
「そっか」
「春」
綾が感極まったように僕の名前を呼ぶ。
僕は黙って綾のセリフの続きを待つ。
「これがな」
「うん」
「これが青春っていうのか、と思ってさ」
「そうだね」
「でもさ、それにしては不格好な青春だな。ボクはボクであることが自由を感じるのに一番大切で、しかも隣には一緒の条件で変装してくれる人がいないといけなかったりする青春」
「……」
「そんなおかしな青春なんて」
綾が自嘲気味につぶやくが、僕は反論する。
「そうかもしれないけどさ、綾」
「春?」
「でも、けっしてそんなことないんだ」
「? どういうことだい?」
「だって、青春の在り方なんて人それぞれじゃないか」
僕はそんな月並みな言葉を口にする。
すると、綾は急に自転車を止めてくる。
そしてこっちを見てにこっと笑う。
「それもそうだな」
「そうだよ」
と、僕は言葉を返す。




