表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/176

1-6 都築 絵里




 スーパーで真っ先に行われていたのはタイムバーゲン。入った瞬間にカランコロンと鐘の音がなり、主婦がお目当ての品物を目指してかけていく。

 

 でも僕達は、それを横目で見やる。

 そして、目的の品を忠実にカゴへ放り込んでいく。


「それにしても凄い人だね」


「ん。たしかに」


「ここまで迫力のあるタイムバーゲンなんて初めてみたよ」


「そうだね」


 というのも、ここのスーパーは基本的にタイムバーゲンはやっていない。

 普段の安さで勝負している店だったからだ。


「春」


「なに? 直」


「お肉」


「え?」


「がとっても安い」


「ほんとだ」


 直が指差す先を見て、僕は口をあんぐり開ける。

 あの値段は通常の二分の一。つまり半額。


「よし、行ってくる」


「大丈夫?」


「大丈夫。任しといて直。ここで肉をゲットしなかったら男じゃない。だから期待してくれ。家に帰ったら、お腹いっぱい肉の入った鍋を食べよう」


「し、死亡フラグ?」


 何やら、あまり良くない物騒な単語。

 そんなのが聞こえてきたけど気にしない。

 

 僕は死地に赴くような気持ちで、商品取りの激戦区となっている紛争地帯に向かう。

 ところが――、


「す、凄い重圧だ」


 人、人、人であふれている精肉売り場の一角。

 とても足を踏み込める状態ではなく、僕はただ立ち尽くすしかない。

 

 しかしそんな中、一人の少女が物凄い正確な動きでやすやすとここを突破しているのを見つけた。

 そしてその少女は、知り合いの絵里ちゃん。

 

 一つの下の後輩で、一緒にバレーをしている間柄である。

 彼女は人懐っこくって、動物に例えるとそれこそネコみたいなキャラクターだ。


「おーい、絵里ちゃん」


「あ、先輩~」


 サイドにくくった髪を揺らしながら、絵里ちゃんがかけよってきた。


「久しぶり」


「はい、久しぶりです」


「十日ぶりくらい?」


「そうですね」


「元気だった?」


「はい、元気ですよ。ていうか、私から元気を取ったら何も残らないじゃないですか。あ、ところで先輩は、来週にあるバレーの集まりに来ますか?」

 

 きらきらとした瞳。

 その瞳で、こっちを見つめてくる。


「ああ、いくよ」


「あ、良かったぁ」


 胸の前に手を合わせて喜ぶ絵里ちゃん。

 その動作のせいで、カゴを取り落としそうになる。


「ところでさ、絵里ちゃん」


「はい? どうしました?」


「君、すごいね」


「えっと、なにがですか?」


「あそこに割って入っていけて」


 僕は激戦となっている紛争地帯を指差す。


「はっ、そういえば! はずかしいです」


「って、そんな身をよじらせてまで、はずかしいがらなくてもいいってば。僕は純粋に凄いと思っているんだから」


 そう言うと、絵里ちゃんは頬をほころばせてくれた。


「先輩。じつは、タイムバーゲンは私の主戦場なんですよ」


「動きを見てればわかるよ」


「身長が低い私にとって有利ですし、バレーボールで培ったサイドステップの動きが行きますので。はずかしながら、実生活に活用しています」


「ということはさ」


「はい?」


「僕でもここで戦えるかな」


「はい、大丈夫です。じゃあ戦いましょう。では行きましょう」


 そう言い切る絵里ちゃんは、素早い動作で僕の手を引く。僕はその力に引っ張られたまんま、彼女についていく。

 そして、もう一度この場で戦うことを決心した。


「掛け声が大事ですよ」


「てやぁぁぁぁぁー」


「広い視野を持って」


「はい」


「ここでステップ」


「はい、師匠」


 こうして絵里ちゃんの先導により、僕は肉をゲットすると言う形で戦いに終止符。

 この戦いには一種の達成感みたいのがあって、癖になりそうだった。


「やりましたね、先輩」


「やったよ、絵里ちゃん。てか、絵里ちゃん。さらに肉買うの?」


「そんなぁー見ないでください」


 いやいやをする絵里ちゃん。


「たしか都築家は大家族だよね。何人家族だっけ?」


「七人ですよ。弟が三人、妹が二人、後、父がいます。だから大事なごあいさつにくるときは、みんなの注目の的ですね」


「注目の的って……いや、その前に大事なごあいさつって何さ」


「いやですね、大事なごあいさつは大事なごあいさつです。もちろん私も、直先輩にごあいさつしますよ」


 そう言い切る絵里ちゃんの瞳。

 奥に怪しげが光が潜んでいる。

 どうやら、僕をからかって遊んでいるようだ。


「ていうか、妹キャラのくせにね。そんなこと言うんだ」


「そうですか? じゃあわっかりましたぁ~。私、先輩の前だけでは、純真な妹キャラでいきまーす。なんて」


「じゃあ、僕は頼りになる兄貴キャラでいこうかな。実生活ではとんと頼りないからね」


「そんなことないですよ。先輩は頼りになりますし、私は頼りにしています」


「えっ?」


「だから、頼りにしていますってば」


 と言って、絵里ちゃんは僕の背中をぽーんと軽く叩いた。





 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ