3-18 秘密の遊戯(4)
綾が駆けていった方角のだいたいの見当をつけ、僕は後を追う。
勝手知ったるこの街。幼馴染の行きつく先。
この二つを考慮してある場所が思いつく。
それは小さい頃、綾の姉の翠さんに連れてもらった高台。
ここから近いとは言えないが、遠くもない。
なので、僕は急いでそこへ向かう。
そして、走りながらも綾にかけるべき言葉を考える。
けど、どうすればいいか。
僕にはわからない。
「どうすれば」
ついつぶやきが口をついて回る。
あの御老人には罪はないが、綾にとっては大切にしていた何かを破壊された気分だったに違いない。
実際、綾もあんなに嘆いていた。
どうすれば綾の嘆きを取り除いてあげられるか。
「……」
そんなのはやはりわからない。
結局、誰かが手助けするのではなく、自分で解決していかなくてはならない問題なのかもしれない。
僕は走りながらもそんなことを考えて、暗澹とした気持ちになる。
やがて高台に着き、ある種の確信を持って綾を探していく。
けど、綾はいない。
可能性のありそうなところはすべて探したが、それでもいない。
もしかしてすれ違いにでもなったのかとも思い、余計な不安がもたげてきたときである。
「君の髪、きれいだね」
へんなことを言う人がいるもんだと思い、声のする方へと振り向く。
すると、男は大きなハサミを持っている。
その瞬間、この街で起きていたあの事件を思い出す。
「あ」
僕は金縛りにあったように身動きがとれない。
そんな中で、僕はこう思う。
今、僕は女の子の格好をしている。
つまり男が狙っている髪も偽物。
エクステがばれたら、いっかんの終わりだと。
男はどんどんと僕に近寄っていき、肩をつかもうとする。身動きの取れない僕は、あっさりと男に捕まってしまう。
「髪、切らせてよ」
「……」
「それだけでいいから」
男がエクステへと手を伸ばす。
僕は男の逆鱗に触れないようにだまってやり過ごすしかない。
しかし、そのときだった。
「春!」
タイミング悪く、綾がやってくる。
「あ、綾」
「春、どうしたの!」
「こ、これ以上近づくな」
明らかに挙動不審になった男。
大きなはさみを綾に向けながら構えている。
僕は勝気な綾が危ないと思った。
そしてこの時、この状況を打破するアイデアが閃く。
前に鳥子さんから教わった人体の不思議をつくツボを押せばいい。
そうすれば十五秒間、相手は停止する。
このままでは、綾が心配だ。
いけるか。どうだろう。
いや、やるしかない。
後は、二人で逃げればいい。
十五秒もあれば相当遠くまでいける。
そして、街まで降りて助けを呼べばいい。
思い立ったが吉日だ。
僕は鳥子さんに教えてもらった箇所を押す。
すると、僕をつかんでいた男の力が一瞬だけ緩くなる。
僕はその瞬間を見逃さず、素早く綾のところまで行く。
「綾、早く!」
「うん」
僕は綾の手を取り、走り出す。
さっきまで僕をリードしていた綾は、大人しくリードされている。
後ろを振り向く勇気はなかったが、男は追ってきていないようだった。




