3-16 秘密の遊戯(2)
いつも利用している都立公園のホールにある障害者用トイレを使って、着替えをする。
先に綾が男の子の格好になり、髪をくくって帽子の中に隠す作業を行う。
「よし」
その声とともに、綾がトイレから出てくる。
「どうかな?」
そして、僕の前でポーズをとる。
自分でも鏡の前で何度も確認したであろう格好。
問題などあるはずがない。
なので、僕は核心を持って告げる。
「大丈夫」
「ほんと?」
「ほんと」
「完璧?」
「完璧」
お世辞ではなく、本当にそう思っている。
前に綾が説明してくれたが、胸にもさらしを巻くぐらいの本格的な変装。
今も胸部の膨らみがなくなっている。
「じゃあ、次は春」
「わかった」
綾はボストンバックから僕の着替えを取り出す。
「はい」
「どうも」
そう言って、僕はトイレの中に入っていく。
綾に渡された女の子の格好に着替え、エクステをつける。鏡の中の自分を何度も見て、大きな違和感がないかを確認する。
その作業をしながら、いつもあることを思う。
よく考えてみれば、とんでもないことをしているのかもしれないと。
けど、僕が綾の手助けとなれる唯一のこと。
そして何より、天衣無縫でわがままな幼馴染が見れるのだ。
「よし」
準備を整え、意を決してトイレから出る。
もちろんそこには綾が待っている。
「綾、どう?」
「うん、大丈夫」
「良かった」
僕はほっとする。
「春。直に似ている」
「あ、そうだね」
この格好をするとき、綾がいつも言うセリフ。
この秘密の遊戯で直に似ていることを強く実感する。
「春」
「何?」
「私、今から変わるよ」
「うん」
「いい?」
「オッケー」
その言葉を合図にキリッとした表情になる綾。女の子らしさをなくしたような表情に綾の変化を感じる。
そして綾は僕をエスコートするように手を伸ばす。
僕はその手をつかみ、綾の言葉を待つ。
「春、わかってるかい」
「大丈夫、わかってる」
綾は手をぎゅっと握りしめてくる。
「さあ、春。ボクと一緒に街へ行こうじゃないか」
ボクという一人称の変化。
綾が男子モードに変わったのだ。




