3-3 寄り道(1)
屋上を出て、あいかわらず車の往来が多いイチョウ並木を三人で進んでいく。
一週間前、同じように三人で歩いたときに比べると、イチョウはだいぶ落葉している。きれいなイチョウの葉も、足元にあれば人に見向きもされない。
だから、若干感傷的になっている僕は、一つだけ鮮やかなイチョウの葉を拾う。
その行為に理由はない。
ただ拾うだけ。
拾ってトートバックのポケットに入れる。
「――だからね、直」
前方では直と綾がおしゃべりをしている。
綾は、一応元気を取り戻したみたいだ。
「春、何ぼーっとしているの?」
気がつくと、綾が後ろを振り向いていた。
そして僕を見ている。
「あー、春ってば、また勉強のこと考えていたんだ」
「ううん。違うよ」
「じゃあ、何」
と、綾がつぶらな瞳をこっちに向けながら聞く。
「綾のことだよ」
「え?」
綾はなぜか頬を染めていく。
「あ、特別な意味じゃないけどさ」
「だったらどういう意味?」
今度は柳眉を逆立てる綾。
何だかあまりよくない気配がしたので、綾から目をそらす。
そうして結局、のらりくらりと綾の詰問をかわし、都立公園の入り口までやってくる。
今日は都立公園にある屋台で、クレープとたこ焼きを食べる予定だ。
「あ、クレープ屋あった」
直と綾がクレープ屋を見つけてかけていく。
「じゃあ、僕はたこやき買ってくるね」
「ん」
直の返事を聞いて、僕はたこやきが売っている屋台に行く。
「すいません」
「はいよ」
現れたのはいかにもな感じのおじさん。
坊主頭にはちまきをしている。
「たこやきを一パックください」
「よし、まかされた」
愛想のいいおじさんが出来たてのたこやきを作っていく。
そしてそのたこやきをパックに詰め、僕に手渡しをする。
「じゃあ、三百円ね」
「はい、わかりました」
おじさんにお金を渡し、ベンチへと向かう。
直と綾は、まだクレープ屋の前で並んでいるようだ。
僕は辺りを見渡し、明日と明後日とのことについて考えてみる。
明日は絵里ちゃんと遊園地。
明後日は綾との秘密の遊戯。
ともすれば、いろいろと考えてしまいがちになる。
けど、物事は深刻に考えすぎないようにすることが大切だ。
そのことと自分とのあいだに、しかるべき距離を置くことも大切になる。
「春」
「あ、直」
まずは先に、直が戻ってきた。
「ピース」
「ピース」
直がVサインで言い、僕も同じように返す。
「綾は?」
「もう少し」
直の言うとおり、すぐに綾が来る。
「ピース」
「ピース」
そして直のときと同じようなやりとりをする。
「春はたこやき買ってきた?」
「うん、買ってきたよ綾」
「普通の?」
「普通の」
綾がたこやきのパックをのぞくので、僕も一緒になって見る。
きれいに並んでいる姿を見て、なんだか授業中の僕達が教室にいるみたいだなあ、とへんな感想を抱いてしまう。
「で、綾。一個いる?」
「いいの?」
「だって欲しそうにしているから」
「私欲しそうにしてた?」
はずかしそうな綾。
「うん。だからあげるよ」
「ありがと。でも、先にクレープを食べるね」
綾がとろけるような笑みを浮かべる。
そしてその後、少し戸惑ったように口を開く。
「えっと、春」
「ん? どうしたの?」
「わ、私のクレープも少し食べる?」
「あ、じゃあ少しもらうよ」
僕がそう言うと、綾に得意げな顔になって言う。
「じゃあしょうがないなあ。特別にあげるんだからね」




