2-20 待ち伏せ
授業が終わり、無事放課後。
僕は直と一緒に帰ろうと思ったが、直には用事があって一人で帰ることとなる。
直の用事というのはクラスの美術部員の助っ人。
絵の上手い直はしょっちゅう駆り出されている。
とはいうものの、直は夏まで美術部の一員。
なので、そんな感覚はないのだろう。
「さて」
小倉くんとも別れ、廊下に出て一人つぶやく。
「帰ったら勉強でもしようか」
そう、受験も近い。
もしかしたら秘密の遊戯やデートなんてしている場合ではなくて、勉強しなくてはならないのかもしれない。
いや、絶対にしないといけない。
そんなことを考えながら、昇降口で靴を履き替えていると綾が立っていた。
「春、待ってた」
「綾」
「待ってなくてもいいけど待ってあげたんだから」
近くに人がいないせいかお嬢様モードは封印している綾。
でも、いつもの綾らしさに僕は安心する。
「で、ぼーっとしていたみたいだけど何考えていたの?」
綾が僕の顔をのぞき込んで聞いてくる。
あどけない綾の顔が近くにあって、僕は困惑しながら言う。
「勉強しなくてはいけないなあって考えていたんだ」
「勉強?」
「うん」
「そんなの当たり前でしょ。受験生なんだし」
「そうなんだけど、最近どういうわけか全く頭になかったんだ」
「だめじゃない、春」
「うん」
「うんって。もう、ほんとに春はばかなんだから」
その言葉に僕はたくさんの言い訳を言い募ろうとするが、綾の機嫌が思いのほか良さそうだったので言い止めた。
昨日電話をくれたときは、あまり元気がなかった綾。
どうしてここまで機嫌が良くなったかはわからない。
けど、綾の機嫌が秋の天気のように変わりやすいことは知っている。
「春、今度家で勉強する?」
「え、綾の家?」
綾の家といえば、探検をしたら迷ってしまうくらい広い家。
「うん。直と一緒にどう?」
「いいと思うよ」
「直に聞いてみて」
「うん。わかった」
と、僕はうなずく。
「そういえば、春」
「ん?」
「今、直は一緒じゃないの?」
「うん。一緒じゃない。直は美術部の助っ人に貸し出された」
「へえ。そうなの」
直がいない理由を綾が納得する。
しかしその後の綾は、なんだか様子がおかしい。
極端にまばたきの回数を増やし、手をわさわさとしはじめる。
「じ、じゃあさ、春。えっとこれからね」
「うん?」
「い、い、一緒に」
「綾、なんで急にどもりだすわけ?」
「うるさいな」
ばしっと背中を叩かれた。
「なんて理不尽な」
うめきながら僕は言うが、綾は聞く耳持たず。
「ほら、春。帰るよ」
ずんずんと進んでいく綾の後ろ姿を見つめて、僕も歩を進める。




