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2-4 ジモティーズ(4)





 みんながいる場所へ戻ると、いつのまにか席がリフレッシュされていた。

 綾の隣にはイケメンの長谷川さんがいる。

 二人は何事かを熱心に話しこんでいて、お互いに笑顔だ。

 

 僕はべつに綾のことをどうしたいとか思っているわけではないんだけど、屋上で綾が告白されるような、なんとも言えない胸のもやもやを感じた。

 

 この微妙な気持ちはなんだろうか。

 嫉妬ともまた違う。

 だけど、やり切れない気持ちで満たされる。


「先輩、先輩」


 そんな中、絵里ちゃんが呼びかけてきた。


「なに?」


「ここに座ってください」


「あ、うん」


 そこしか席が開いていないのもあってか、絵里ちゃんの言われたとおりに座った。

 絵里ちゃんはピザを食べるのを止めて、僕に呼びかけてくる。


「先輩」


「ん?」


「先輩」


「えっと、何?」


 何か期待したまなざしでいるけれど、僕にはさっぱりわからない。

 でも、絵里ちゃんのその笑顔は好きだ。


「あのー」


「うん」


「私との約束はどうなりましたか」


「約束?」


「そうです。約束です」


 約束と言われても、思い当る節がない。

 ということは、絵里ちゃんの早とちりだろうか。

 しかし、絵里ちゃんの早とちりよりも、僕の忘れっぽさの方がもっとひどい。


「覚えてないんですか」


「うん。そうみたいなんだ」


「じゃあ、耳を貸してください」


「えっ?」


「耳ですよ、先輩」


「耳か」


 言われたとおりにそうして待つ。

 絵里ちゃんは、ピザを食べた手をおしぼりで念入りにふいている。

 そして僕の耳に手を当ててきた。


「ごにょごにょごにょ」


「……」


「ごにょごにょ?」


「えーと」


 絵里ちゃんは何を言っているんだろうか。


「ごにょごにょ」


「え?」


「ごにょごにょごにょごにょ、って、先輩!」


「えっと、それよりも何を言っているの?」


「おそいですよー。早くつっこんでください。私、つっこみ待ちだったんですからぁ」


 そうなのか。

 さっぱりそのペースに乗れていなかった。

 けど、絵里ちゃんのテンションの高さもいつもよりおかしい。


「ところでさ、絵里ちゃん」


「はい?」


「約束の件はなんだったの?」


「えっと」


 急に口ごもったようになる絵里ちゃん。

 そしてこっそりとつぶやく。


「あの、デートです」


「え、デート?」


「しー。先輩。みんなに聞こえてしまいますよ」


「絵里ちゃん。聞こえたらまずいの?」


 僕も絵里ちゃんと同じように小声で話す。


「はい。せっかくデートをするんですから、内緒のデートがいいんです」


「……」


「内緒のデートですよ。胸躍る感じがしませんか?」


「……」


「来週の日曜日なんかどうですか?」


「来週の日曜日」


 オウム返しにつぶやいて、僕は押し黙る。

 すると絵里ちゃんが、残念そうな顔をしながら言う。


「先輩。何を困った顔しているんですか。後輩の女の子にデートを誘われて、困った顔をする男の子なんていませんってば」


「そうだね」


 たしかにそのとおり。

 美咲さんのせいでいくらデートにトラウマがあるとしても、僕となんかデートに行きたいと言ってくれる絵里ちゃんの気持ちはとてもうれしい。


 でも、来週の日曜日。

 この言葉で脳裏に浮かんだのは、綾のこと。

 

 もちろんこれは綾とデートをするという意味ではない。

 僕達が周期的に行っている秘密の遊戯のことである。


「あのー、先輩?」


「あ、ごめん」


「どうしました?」


「ちょっと考え込んでいて」


 うわの空になっていた自分を軽く叱責する。

 改めて、絵里ちゃんの方へ向き直った。


「それで、絵里ちゃん」


「はい」


「デートの件は約束なんだね」


「えっ、あ、はい。そうしちゃいます」


 ちゃめっけいっぱいの絵里ちゃんは、ウインクしながらうなずく。


「そっか。でも、来週の日曜日は都合が合わないんだ。だから、絵里ちゃんの都合がいいなら土曜日でどう?」

「えっ、土曜日ならいいんですか?」

 

 驚いたように目を丸くする絵里ちゃん。


「うん」


 と、僕はうなずく。


「ほんとですね」


「ほんとだよ」


 僕がそう言っても、絵里ちゃんは何度も聞き返してくる。

 そんなやりとりが数回続いたあと、絵里ちゃんはやっと納得して喜んでくれた。








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