1-18 お弁当(3)
綾の作ったおかずを三人で食べ終え、一息つく。
食べ終えてもなお、綾の作ってきた料理に感動を覚えるほどで、あんなにボリュームがあったのにすべてなくなっていることに驚きをかくせない。
綾の料理はお腹いっぱいになっても、どんどん入った。
「綾、おいしかったよ」
「うん、ありがとう春」
「なんかすごい上手くなっていたね」
「そりゃそうよ。人は日々成長していくものなんだから」
「そういうものかな」
「そういうものでしょ」
綾は得意げに胸を張る。
「それに気合い入れて作ったし」
「そっか」
「だから上手にできないわけがないじゃない」
「そうだね」
それから、たわいない会話を交わす綾と僕。
今日何があったとか、勉強の調子はどうだとかいろんなことを話す。
そして僕達が話しているあいだ、直はいつのまにかスケッチをしている。
さらには、時々何か考えごとをしているようで、切れ長の視線をさらに細めて、フェンスの向こう先を見ていた。
「そいえば、綾」
直が口を開く。
「何?」
「あのとき、なんでいつも綾がお父さん役だったの?」
「えっ?」
直の質問を聞いた綾が不思議そうに首をかしげる。
「それで春がお母さん役」
「な、何の話?」
「泥団子作ってた頃の話」
「それって子どもの頃?」
「ん」
「そっか。子どもの頃の話ね」
綾が納得する。
「でも、そうだったっけ?」
「そう。それで私が子どもだった。どうして?」
「えっと……」
「なんとなく?」
「うん、なんとなくかな」
綾が戸惑ったように笑う。
でも、僕は綾が戸惑ったわけを知っていた。
それは二人の秘密の遊戯に関係あることだったからだ。