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4-7 アクアリウム(1)






 アクアリウムランド。

 それがこの水族館の名前である。


 アクアリウムというのは水生生物の飼育設備を指すらしく、水族館のような大型施設から小規模な個人的設備までのすべてにまたがる概念という。

 つまり、ここはアクアリウムの総本山なわけだ。


「春、旅の目的はここだったの?」


 僕の後ろで入口前の案内を見ていた綾が聞く。


「いいや、違うんだ」


「そうなの?」


「そうだよ。ここは僕にとって手順を踏まなければいけない場所だから」


「なにそれ。意味わかんないよ」


 綾が文句を言うが、僕は気にしない。


「とにかくさ、中に入ろうか」


「うん」


 そうして、綾と僕は中に入っていく。

 建物の中はカレイドスコープのように幻影的な作りとなっていて、雰囲気がとてもいい。

 いろんな瞬間の魚が見れて、僕達は大いに満足する。


「春、マンボウの動きっておもしろいよね」


「なんであんなにスローモーションなのかな」


「たしかに」


 綾がおもしろくてしょうがないといった感じで笑う。


「あ、春。ここの立て看板にその由来が書いてあるよ」


「ほんとだ」


 立て看板を読むと、そこにはマンボウの動きの秘密というトピックが振られていた。

 なんでもマンボウは、体の後半が退化しているせいで俊敏な動きが出来ないらしい。


「へぇ、そうなんだ」


「そうみたいだね」


「でも、なんかたまにすいーって動きあるよね」


「すいー?」


「違う。すいーって感じ」


「え? わかんないよ」


「すいーって」


 綾はわざわざ体を使って実演してくる。

 なんとも微笑ましい姿だ。


 けど、僕は思っているすいーってやつと大差はない。

 それはあんまりである。


「あのさ、綾」


「ん?」


「綾が言っていることと僕が言っていることは同じだと思うんだけど」


 僕は、おそらく誰もそう思うであろう不満を口にする。


「ううん、違うから」


「そうかな」


「うん」


 結局、しょうがないのでそれで納得した。

 というよりも、別の観点で気になってしまったともいえる。


「その動き、もしかしたら別の魚じゃない?」


「あ、そうかも」


 そんなオチでマンボウ談義が終わった。

 話題は隣で遊泳していたハリセンボンに移っていく。


「ハリセンボンって膨らみすぎだよね」


「なんであそこまで膨らむなのかな」


「いつだか忘れたけど、あれで敵を威嚇しているってきいたことあるよ」


「へぇー。あれで威嚇しているんだ」


「うん」


 僕はハリセンボンの気持ちになって想像してみる。

 威嚇の時に体全体を膨らますというのはどういう気持ちなんだろうか。


 とりあえず一生懸命考えてみた。

 けど、わからない。


「春、何ぼーっとしてんのよ。こっちこっち」


 僕がそうやって考えこんでいると、綾は手をひっぱってくる。


「クラゲ」


「ほんとだ」


 今度はクラゲに夢中になっている。

 僕はその変わり身の早さにやれやれと思うが、クラゲの動きを見れば、さもありなんと思い直してしまう。

 クラゲは不思議な動きで、僕達を大いに魅了させている。


「あれもすいーっだね」


「春、何言ってんの。あれは違うから」


「え?」


「あれはすすすすいーって感じ」


 綾が力こぶを握って力説する。

 けど、僕にはその違いがわからない。


「あ、春。こっちにはサメがいる」


 綾が勢いよくかけていく。

 その勢いは止まらない。


「待って。綾」


 息を切らして追いかけていく。

 どうやら、綾の後をついて回ることになりそうだ。

 そんなことを確信する。


「もう、春が遅いからいけないのよ。奥の方にいっちゃったじゃない」


「ごめん。でも、もっとゆっくり見ればいいじゃないか」


「いいの」


 綾が楽しそうな顔をして、すすすすいーっと進んでいく。


 

 



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