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4-4 おまじない






 何日かたって、とうとう綾と旅に行く日がやってきた。

 今日は僕にとって一大イベントだ。


 綿密に計画を立て、願をかけるように手順をこなしてきた。

 後は実行に移すだけである。


「春は最近起きるのが早いね」


 テレビの前で正座している僕を見て、直が不思議そうに首をかしげる。


「それは緊張しているからだと思う」


「あ、そっか」


「わかった?」


「ん」


 直と僕はそれだけの言葉を交わし、互いにすることをやっていく。

 僕は気持ちを整えること。直は朝ご飯の準備。

 やがて朝ご飯ができたのか、直が僕を呼ぶ。


「春、できた」


「うん」


 今日の朝ご飯のメニューは中華風っぽい珍しいもの。

 作るとは言っていたけど、今までで一度たりと作ったことはなかったメニューだ。


「直、今日のメニューはどうしたの?」


 聞いてみるが、何の反応もしない。

 下を向いてうつむいている。

 と思ったら、いきなり豹変した。


「今日はチューか?」


「え?」


「チューか?」


 中華を連呼する直。

 意味がわからない。

 僕が首をかしげていると、直は無表情でむっとして聞く。


「春、今日は直にキスするの?」


「え?」


 あまりの話の変わりように僕は唖然とする。

 そもそも、キス以前の段階だ。

 まずは告白をしなければならない。


「あ」


 ふいに昨日のことを思い出す。

 昨日は絵里ちゃんがキスをしてきた。


「春、頬赤い」


「赤いかな」


「ん」


 直の言葉を受けて、おもわず手に頬をやる。

 しかも、キスをされた場所をなぞってしまった。


「春、なんか変」


 直がジト目でこっちを見てくる。

 僕はいたたまれなくなって、視線を逸らす。


「春、誰かにキスされたの?」


「え?」


「されたんだ」


 直はまるで超能力者のように推測する。

 それとも僕がわかりやすかったのだろうか。

 ともあれ、直から無言のプレッシャーをびしびしと感じる。


「私も春とキスする」


 そしてとんでもないことを言いだす。


「何言っているの? 直」


「だってキスしたいと思ったから」


「なんで? 兄妹なのに」


「ちなみに額がいい」


「まったく聞いてないね」 


 普段は賢くて、料理以外はなんでもできる自慢の妹だけど、まれにおかしなことを言ったりしたりするのが玉にキズである。

 それも僕限定のような気がする。


「春、キスしていい?」


「そんなことを言われても困るよ」


「困らない。キスするの」


 直がいやいやをしながら言う。

 これは完全に甘えたさんになっている。


 こうなったらどう対処すればよいのかわからない。

 なので僕は、頭を悩ます。


「直、倫理的によくないんじゃないかな」


「そんなことない。家族愛の証」


「家族愛は別の形で示せばいいと思うんだけど」


「いいの」


 直は一向に譲らない。

 もう直の言う通りにしてもいいような気がする。


 などと思ったところで、直が行動を起こす。

 電光石化の素早さで近寄られて、額にキスをされた。


「直」


「ごめん。衝動をおさえられなくて」


「今日だけ特別だからね」


「ん」


 直がうなずく。


「これはうまくいくためのおじまないだから」


 なんだかごまかされた気がする。

 けど、気にしないことにしようと思う。

 





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