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4-2 屋上キス






 チャイムが鳴って、今日の授業をすべて終える。

 絵里ちゃんとは放課後を会う約束にしたので、これから迎えに行く予定だ。


「春、直、じゃあな」


「あ、じゃあね」


「バイバイ」


 小倉くんとあいさつを交わし別れる。


「春、私音楽室にいるから」


 最近の直は音楽室でギターを習っている。

 なので、こういうことも多々あったりする。


「うん、わかった。それは帰りが遅くなるってことだね」


「ん」


 直とも別れ、僕は二年の教室に向かう。

 この中学は学年が上がるごとに階が下がっていく仕組みだから、二年の教室は二階にある。特別教室以外で二階に行くこともないので、二年の教室の前を通るのは久方ぶりだ。


「あ、いた」


 二階に行くと、絵里ちゃんが自分の教室の前で待っていた。

 なぜか落ち着かない感じで、そわそわしている。

 僕の存在を確認すると、絵里ちゃんはキラキラした笑顔でこっちにやってくる。


「先輩」


「何?」


「呼んでみただけですよ」


「そっか」


「大好きな先輩」


「恥ずかしいから止めてって」


 けど、なおも大好きと連呼してくる絵里ちゃん。

 その暴挙を必死になって食い止める。


「絵里ちゃん」


「なんですか?」


「デコピンするよ」


「どうぞ」


 頬を差し出すキリストのように、絵里ちゃんが額をさらす。

 すると形の良い額が露わになって、どことなく気恥ずかしさを覚えてしまう。


「先輩の愛のムチなら、私は受け入れます」


「いや、そんなんじゃないんだけど」


 とにかく話を変えようと思った。


「とりあえずさ、どこか落ち着けるところに行こっか」


「あ、そうですね」


 廊下でじゃれあいみたいな立ち話をするのもあれである。

 それでどこに行こうかと考えていたら、絵里ちゃんから提案してきた。


「私、屋上に行ってみたいです」


「屋上?」


「はい。屋上です。高校の文化祭で見た屋上の景色と見比べたいと思いまして」


「そっか。でも、絵里ちゃんは屋上へ行ったことはないの?」


「行ったことありません。そもそも屋上に行ってみたいと思ったのも、急に今思い立ったんです」


「そうなんだ。じゃあ、行こうか」


 こうして僕達は屋上へ向かう。

 屋上へ行くにしたがって、だんだんと人が少なくなっていく。

 人の流れと逆行しているのだから、それもそうだなと思う。


「ここから行くんですか?」


「うん。僕はいつもこの階段を利用するよ」


 いつもと同じように屋上に繋がる階段を上り、屋上のドアを開ける。

 すると、慣れ親しんだ光景が一気に広がった。


「わぁ、こっちもいい景色ですね」


 絵里ちゃんは富士山が見えるスポットまで駆けていって、景色を堪能しはじめる。

 なので僕は慌ててそこまで行き、絵里ちゃんの様子を見守ることにする。

 そしてしばらくはそうしていたが、ふいに絵里ちゃんが口を開く。


「先輩。話って綾さんのことですか?」


「そうだよ。綾のこと」


 タイミングを見計らっていたら、絵里ちゃんの方が切り出してくれた。

 僕はそれに乗じて、思っていたことを言う。


「今度さ、綾に告白するんだ」


「そうなんですか」


 景色を見ている絵里ちゃんの様子は窺い知れない。

 けど、僕はやっぱり思う。

 この発言は残酷だったのかもしれない。


 言ってしまえばこうである。

 けじめをつけなければならないこちら側の都合だけを抽出したものだ。


「先輩。やっと決心が着いたんですね。良かったです」


 なのに、絵里ちゃんは僕の想いを尊重してくれる。


「でも、私が好きでいてもいいですよね」


 そしてこんな言葉をつけたした。


「うん。それは僕がとやかく言う権利はないから。絵里ちゃんの好きにすればいいと思う」


 僕は優しく語りかける。

 これは難しい問題で、解決する策はない。

 絵里ちゃんが言うところの灰色な部分だ


「あの、先輩」


「ん?」


「一つだけ、私のお願い聞いていただけますか」


「どんなお願い?」


「それは少しの間、目をつむっててほしいんです」


「そっか」


 この後の展開は、僕でも察してしまう。

 なぜなら、絵里ちゃんが覚悟を決めたように唇をなぞっているからだ。


 なので僕は目をつむり、大人しく待つ。

 すると、柔らかい感触が頬を伝ってくる。


「先輩、ごめんなさい」


「謝る必要はないよ」


 絵里ちゃんらしく、さわやかで元気なキスだと思った。






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