4-1 スタンド・バイ・ミー
何事にも綿密な計画を立てた方がいい。
そして手順はしっかり踏んだ方がいい。
というわけで、僕はしなければならないことを考える。
まずは想いを告げてくれた二人の女の子にしっかりと断わること。さらには、綾に告白するのを報告すること。
大切なのは誠意を持っての対応。
それは綾が、何度も手本を示してくれている。
僕はそれを参考にすればいい。
「これでよしっと」
僕は二人の女の子にメールを送る。
内容は簡潔に話したいことがあると告げた。
順番は絵里ちゃん、奏ちゃん。
一日ずらして会う約束をしている。
「春、おはよ」
「直、おはよ」
「今日もいい天気」
「そうだね」
今日は直に起こされることもなく、すでに起きていた。
それで思い立ったが吉日ということで、手順を踏んでいたのだった。
「春、どうしたの?」
直が聞いているのは、どうしてこんなに早く起きているのかという意味である。
なので僕は、昨日の報告を踏まえて言う。
「手順を踏もうとしているんだよ」
「手順?」
「うん。手順」
「そっか」
直はそこに関心を寄せることもなく、朝ご飯とお弁当の調理を始める。
その姿は手際良く、そこだけ切り取れば料理の上手な人そのものである。
「直、料理がうまい人の速さだね」
「ん。ありがと」
僕は待っているのも暇なので、小説を読みはじめる。
おそらく今日で読み終わるくらいの分量。
いや、もしかしたら朝のうちに読了してしまうかもしれない。
「春」
そうしてしばらく小説を読んでいると、直の呼ぶ声が聞こえた。
くしくも、本をちょうど読み終えたところである。
「朝ご飯食べよ」
「うん」
返事をしつつも、急いで席に着く。
そして僕は、読み終わった本のことを考える。
「……」
吉田さんがあんなにも勧めてくれた恋愛小説だが、どうにも性に合わなかった。
あんなにまで僕をかばってくれた吉田さんに申し訳ないなと思う。
けど、ただ一つ題名でもある言葉が印象に残っている。
スタンド・バイ・ミー。
君のそばにいる。
この言葉が頭の中を離れない。
「春」
「あ、ごめん」
ぼーっとしていた僕に声をかけてくる直。
直は無表情だけど、心配そうにこっちを見ている。
「ちょっとさ、読んだ本のことを考えてへんな気持ちになっていたんだ」
「え?」
直の目がいきなり見開く。
一重の奥ゆかしい瞳をめいっぱいに開いている。
ご飯を食べていた手も止めていて、何か一大事を感じさせる反応だ。
「は、春」
「えっと、どうしたの? 直」
今度は僕が心配になって聞いてみる。
すると直は、こんなことを言いだした。
「その本って」
「うん」
「官能小説?」
「はい?」
どうしてそうなるのだろうか。
僕にはわからない。
「春、そうなの?」
「違うから」
「そう」
直がほっとしている。
困ったものだ。
「春」
「何ですか?」
なぜか敬語になる。
「官能小説は十八歳から。それ以外の場合は応相談」
「いや、読んでいないし、今もこれからも読む予定もないからね」
しっかりと否定しておく。