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1-16 お弁当(1)






 数学の授業が終わって、昼休み。

 昼休みを迎えると同時に、急いで教室を出ていく人がいる。

 

 それは弁当を持参していない人が購買のパンを買うためであり、人気の銘柄を獲得するための熾烈な競争のはじまりでもある。

 

 そう、この近辺の中学校では珍しく給食がない。 

 なので、弁当と購買ですませている。


 そしてさらに珍しいのは、どこで食べても自由という校風。

 高校などではそうしているところが多い。けれど、中学では班を作って机を並べるのが基本だと聞く。

 

 たとえば《ジモティーズ》のメンバーでもあり、違う中学の山口さんなんかは、そんなことはありえないと否定する。

 

 ともあれ、みんなそれぞれ、好きな場所で好きな相手とともに昼食。

 そんな習慣が当たり前のようにできあがっている。


 僕は基本、同じクラスの小倉くんと一緒。

 小倉くんは、すぐ脱ぐ癖がある以外はカードゲームが好きな普通の人。それと、よくしゃべるから聞き役の僕と相性がいい。


 直も女の子同士でご飯を食べることが多いけど、たまにはこっちにやってくる。

 それで僕達の弁当が一緒なのを見て、小倉くんは、やっぱ兄妹なんだなとしたり顔で言う。

 あれはどういう意味なんだろうか。


「春、飯食うぞ」


「あ、うん」


 ちょうど、激戦の購買から戦利品を確保してきた小倉くんが教室に帰ってきた。

 調理パンを三つも抱えている。


 彼と僕は机を並べ、昼食の準備を始める。

 そこで、今日は直がやってきた。


「春」


「あ、直」


「私言い忘れていたことがあった」 


「何?」


 小倉くんとともに、きょとんとした顔をする。

 お弁当の包みを開きながら、直の言葉を待つ。


「今日のお弁当軽いでしょ」


「そういえば」


 もう一度、お弁当を持ちなおして、その軽さを確認。


「たしかに軽いね」


「ご飯しか入っていない」


「なんだそりゃ」


 と、小倉くん。

 僕の代わりに、彼が声をあげてくれた。


「どういうこと?」


 と、僕は聞く。


「綾がおかずを作ってきたの」


「んん?」


 直の言っていることがよくわからない。

 だから、どういう事態なのか考えてみる。

 すると、全容が見えてきた。


「直」


「何? 春」


「言い忘れていたなんて言っているけど、お弁当の中身がご飯なのは確信犯じゃないの」


「ん」


 射抜くような直の視線。


「だから、綾のところ」


「そっか」


「そうなんだな」


 小倉くんが残念そうに言う。


「ということは、今日、春も直もここでは食べないってわけだ」


「ごめんなさい、小倉くん」


「うん、ごめん」


 綾が頭を下げ、僕も謝った。


「あ、いいって」


 けど、気のいい小倉くんは、直と僕の謝罪をあっさりと受け入れる。


「遠藤とは面識ないから、まあしょうがないな。それに遠藤のファンクラブににらまれたら、たまったもんじゃない」


「それじゃあ」


 そして、少し申し訳なく思いながらも席を立つ。 


「だー、俺、鈴木達のとこで食うから気にすんなってば、春」


「うん。わかった」






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