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2-12 直の指摘






 あの後、彼氏が出来て大騒ぎをする美咲さんの相手をさせられた。

 美咲さんはチューハイを取り出して飲み、おかげで僕達も陽気に騒がざるを得なかった。


 それは二人が帰ってからも余韻が残るほどで、なんだか言葉にできない寂寥感みたいなものがこみあげてきていた。

 その寂寥感は、寝る前の一日を思い返すのに似ている。

 不思議だけど、似ている感じがする。


「春」


「何?」


「今日は寝る前に本を読まないの?」


「うん、今日はいいかな」


「どうして?」


 直がじっと見つめる。

 すべてを見透かしてしまいそうな視線だ。


「なんとなく?」


「うん、なんとなくだよ」


「そう」


 直はそれっきりその話題には興味がなくなったようで、足でシーツを伸ばすいつもの癖をしている。なぜ足で伸ばすのかは不明だが、それだからこそ癖なんだろうと思う。


「春」


「ん?」


「今日の勉強会で、綾の春に対する態度がいつもと違った」


「え? 元気がなかったではなくて?」


「ん」


「そうだったかな」


「そう」


 直が真剣にうなずくので、思い返してみる。

 探るように、記憶を掘り起こす。


「あ」


 すると、たしかに直の言う通りな気がしてきた。

 話しかけてもどこかよそよそしかったし、目が合ってもそらされたりした。


 それは綾が小平さんに告白を受けたせいで気もそぞろではないと感じていたけど、良く考えて見ればそんなことは当てはまらない。


 いつもと違う。

 いや、違いすぎる。


 その違いを正確にはわからない。

 けど、感覚が教えてくれる。


「わかった?」


「一応は」


 今になって思えば、なぜ気がつかなかったのだろうか。

 直に指摘されてやっと気がつく。

 それはまずいことに違いない。


「春。今日、綾が告白されて、春が隣にいたよね」


「うん。いたよ」


 それは事実に違いない。

 ただ、直が暗黙裡に認識している前提が違う。

 相手が男ではなくて、女の子であることだ。


「ん。いつもと違うのは私がいない。そして屋上じゃない」


「うん」


「どうして?」


 直が疑問を口にする。


「それで春と綾の関係に変化が出たの?」


「いや、そうじゃないと思う」


「そう」


 思えば、今まで屋上で綾が告白を受けた時は、いつも二人だった。

 ただ、実際に頼りにされていたのは直で、僕はどこか外れた視点で見ていた。


 けど、今日は違った。

 男女逆転という事情があったにせよ、綾が告白されている時に僕がいる意味があったのだ。


「それならどうしてだろう?」


 直がうなる。

 直にしては珍しい。


「んーわからない。春は?」


「直がだめなら、僕にだってわからないよ」


 問題はあったにしても、最近はうまくやっていたはずだ。

 原因がわからない。

 女の子についてもそうだし、わからないことが多すぎる。


「直」


「何? 春」


「僕はさ、いつものように考えすぎることはよくないとして、考えることを止めるべきかな?」


「というより、春はすでにいっぱい考えている。綾のことも、その他の女の子のことも」


「うん」


「だからこんなにも悩んでいる」


 そして直が、さらに言葉を紡ぐ。


「でも、それが大切。考えることが綾のためにも大切」


「そっか」


 直が言うのだからそうなのかもしれない。

 直の言うことは正しい。

 僕はそんなことを考えながら電気を消す。


「直、おやすみ」


「春、おやすみ」


  




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