2-7 ご奉仕検定
「あのさ、奏ちゃん」
「何?」
奏ちゃんはかわいらしく首をかしげる。
特徴的なおさげ髪が少しだけかたむく。
「奏ちゃんって、こういうことにアグレシッブな人だったの?」
「ううん。直ちゃんが執事服を来ているのを見てね、なんとなく負けてられないと思ったから」
「いや、そんな理由でメイド服を着てはいけないと思うんだ」
「そうかな」
「そうだよ」
とりあえず理由を問いただしてみる。
すると、なんともいえない答えが返ってきた。
奏ちゃんは何に刺激されたのだろうか。
ともあれ、僕はそれ以上触れないことにする。
「それで春くん、私は似合っている?」
いや、できなかった。
逃げ切れなかった気分だ。
「どう?」
「似合っているよ」
「どういう風に?」
「典型的なメイドさんっぽくってかわいいよ」
僕は正直に伝える。
褒め言葉にはなっていないかもしれない。
けど、そう思ったのだからしょうがない。
「春くん」
「何?」
「ありがと」
やけに照れる奏ちゃん。
そこまで照れるなら、普通の格好にすればいいのになと思う。
「春くん。私、メイドだからご奉仕しないといけないよね」
「え?」
なんか変なことを言いだした。
「何でも言うこと聞くよ」
そして変なことを口にした。
「あのさ、どうしてそうなるの? 奏ちゃん」
「え? 私、おかしなこと言った?」
「おかしなこと言ったよ。奏さん、何言ってるの?」
小平さんも慌ててたしなめる。
「そんなこと言ったらさ、坂本がつけあがるでしょ。あれやこれや命令されて大変なことになっちゃうんだからね」
後半の部分は否定したいけれど、心情的には小平さんを応援したい気分だ。
「奏。春の世話なら私も手伝う」
「直ちゃん。世話じゃなくてご奉仕」
「ご奉仕? それ、私でもできる?」
「どうかな。ご奉仕検定で調べてみないと」
どうにもつっこみきれない。
僕は成り行きに任せることにする。
「坂本。早くどうにかしてよ」
「いや、こうなったら成り行きにまかせるしかないんだ」
「いいや、これはアンタのせいでしょ。アンタが中心で話が進んでいるんだから」
「そうだけどさ。でも、今はマシなほうだよ。美咲さんがいないから」
「み、美咲さん……」
ちなみにこの間、直と奏ちゃんはどうでもいい話をしている。
ただ、小平さんと僕もどうでもいい話だ。
「春くん。それで本題なんだけど、勉強会はいつするの?」
「あ、それは今始めてでもいいし、綾が来てからでもいいし」
「そう。まあ、とりあえずは準備をしないとね」
奏ちゃんは自分の勉強道具を机の上に出していく。
そしてそれがスイッチとなったのか、直も小平さんも同じようにする。
「あ、奏さんは高校の教科書なんですね」
小平さんが奏ちゃんに言う。
「そうだよ」
奏ちゃんは物理という未知の分野の教科書を開いている。
これを見ると、僕達と一学年違うことを認識させられる。
「それでは春くん」
奏ちゃんが僕を呼ぶ。
「先に始めてよっか。私は頭が良くないけど、出来る限り疑問には答えるつもりだから頼ってね。高校生の意地をみせるつもりでいるから」
「わかったよ、奏ちゃん」
「はい、わかりました」
「ん」
三者三様の返事。
家での勉強会はこうしてはじまった。