2-2 新しい住人
外がなんだか騒がしい。
ちょうど備えを終えて、一息ついたところで人の声がたくさん聞こえてきた。
人通りがそんな多い方ではないから、何かあったのだろうか。
「どうしたのかな」
「たしかに」
今、直と僕はお茶を飲んでいて、朝のひとときをくつろいでいる。
けど、気になってきたので見に行こうかと思いたった。
「直、ちょっと見に行くよ」
「私も」
直も一緒になって立ち上がる。
そして、靴を履いて外へ。
外に出ると、トラックが東風荘の前に止まっていた。
「引っ越し?」
直がつぶやく。
「そうみたいだね」
トラックのマークや従業員の作業状況から鑑みて、きっとそうに違いない。
ということは、僕達が前に想像していた通りのことが起こっている。
「直、隣に入居者がくるよ」
「ん。近所付き合い」
直は近所付き合いに思いを馳せている。
「でも、変わった人が多い東風荘の気質に馴染めるかな」
「大丈夫」
と、そこでトラックの影から見知った人物が出てくる。
「奏ちゃん」
僕は驚く。
「奏?」
直が僕に聞く。
「ほら、昔よく一緒に遊んだ」
「あ」
どうやら直も思いだしたみたいだ。
奏ちゃんはこっちに向かって歩いてくる。
「直ちゃん。久しぶり」
「ん。奏」
「直ちゃん。昔と変わらないな」
「そう?」
「そうだよ」
ここでも久闊を叙す二人。
それよりも僕は奏ちゃんに聞いてみる。
「あのさ、奏ちゃん」
「何?」
「もしかして五号室の入居者って、奏ちゃん?」
「うん、そうだよ。でも、ごめんね。春くんと直ちゃんがここに住んでいるのも知っていたんだ。後、予算的にここしかなかったのもあるけど」
「なんで謝るのさ。僕は嬉しいよ」
「ほんと?」
「うん」
僕はうなずく。
「私も嬉しい」
直も言う。
「あ、そうだ。奏ちゃん。引っ越しの手伝いをするよ」
「え? 手伝ってくれるの?」
「もちろん」
僕がそう言うと、奏ちゃんは両手を合わせて喜ぶ。
「ありがとう。春くん」
「奏、私も手伝う」
「直ちゃんもありがとう」
こうして僕達は引っ越しの手伝いをする。
とはいっても、やることはそんなにない。
小物を一緒になって運ぶくらいで、談笑しながらでもできた。
時間もあまりかからず、すぐに終えてしまう。
「終わったぁ」
奏ちゃんがノビをする。
そしてこっちを見て言う。
「ありがとう、二人とも。おかげで助かった」
「いや、ほとんど何もしていないよ。荷物がそんなになかったみたいですぐ終えたしね」
「あ、それは家具がこれから少しずつ送られてくるんだ」
「そっか」
僕は納得する。
「それよりも、とにかくお礼をしたいな」
「お礼かぁ」
「うん。で、何かない?」
僕は考える。
けど、お礼といっても思いつくものはない。
というか、たいしたことはしていないのだ。
「勉強会は?」
直がぽつりとつぶやく。
「あ、それいいね」
僕は直のいいアイディアにひざをうつ。
「えっと、勉強会?」
奏ちゃんが聞き返す。
「一応、期末テストが近づいていてさ。午後に、綾とかと勉強会をすることになっているんだ」
「そうなんだ。それなのに手伝わせてごめんね」
「いいって。そんなことよりも午後は暇?」
「暇? そうだなあ。することといえば片づけくらいだから、何の問題もないよ」
「だったら、僕達の勉強を見てほしいんだ。きっとわからないところがあると思うから」
そして僕は家に集まる時間を言って、もう一度頼み込む。
「どう? 奏ちゃん」
「それはいいけどね。私、そんなに頭良くないよ」
「奏。謙遜してる」
直が指摘する。
「期待しすぎだよ、直ちゃん。それに春くんも」