1-17 奏の想い
結局、奏ちゃんが年配らしく気を使ってくれた。
綾と僕をなだめすかしてくれて、僕達は一息つくことが出来た。
思えば何年ぶりかの三人での再開なのに、なんて大人げないことをしてしまったんだろうか。大人げないにもほどがある。
綾の方も言いすぎたと思っているようで、僕に謝ってきた。
「綾、僕じゃなくて奏ちゃんに謝らないと」
「あ、うん」
二人揃って反省をする。
「ごめん、奏ちゃん」
「私もごめん」
「いいって。私が原因みたいなものだし」
「そんなことないよ。ね、春」
「うん。そうだよ」
ここぞとばかりに結託する。
すると奏ちゃんは、苦笑いを浮かべながら納得してくれた。
「で、綾ちゃん。一緒に遊びに行ってくれる?」
「うん。もちろんいいよ。かなり楽しめるような気がするし。それよりもさ、奏ちゃん。今、時間ある?」
「時間?」
「うん」
奏ちゃんが腕時計を見て一言。
「大丈夫」
「良かった。だったらさ、せっかくの再開を祝してもう少しお話しようよ。あそこの都立公園にはおいしいクレープ屋もあるしね」
綾が奏ちゃんの手を取る
「綾、時間は大丈夫なの?」
「うん。大丈夫」
こうして僕達三人は、都立公園へと寄り道をする。
ここの都立公園は自然の安らぎを感じる場所で、ときおりテニスボールの音が牧歌的に聞こえてくるのも風情があって良い。
女の子二人がクレープ屋で並んでいるので、僕はベンチに座りながら待つ。
たこやき屋でたこやきを買おうと思ったけど、なんとなく止めておいた。
五分くらいすると、二人が戻ってくる。
「春、ピース」
「ピース」
「ピース?」
奏ちゃんが不思議そうに聞く。
「ああ、これはクレープを買った時に必ずやるんだ。ちょっとした決まりみたいなもので、いつのまにかそういう習慣ができあがっていたみたいだね」
「へぇ、そうなの?」
「うん」
綾がすっかり機嫌を直してうなずく。
「そっか。じゃあ春くん。私もやるね」
「オッケー」
そして奏ちゃんがぎこちなそうにする。
「ピース」
「ピース」
僕もなかなかしっくりいかない。
これは時間が解決してくれるだろう。
「あれ?」
「何? 綾」
「今日はたこやき買わなかったの?」
「あ、今日はいいかなと思ったんだ」
「そう。珍しいね」
「うん。僕も珍しいと思う。けど、そんなことよりも座った方がいいんじゃない?」
「あ、そうだね」
綾が僕の隣に座る。
「じゃあ、私も隣」
奏ちゃんも同じようにする。
期せずして、両手に華状態。
そして二人はあいづちを打つ僕を挟んで、子ども時代の話に終始する。
あの日、ふいに僕の夢に出てきた秘密基地の話も出てきたし、他にもいろんな話題が登場した。
「そういえば春くん」
「何? 奏ちゃん」
「私、今気付いたんだけど、これしてみたいな」
クレープを差し向けてくる奏ちゃん。
「む。それは」
綾がじーっと見つめてくる。
さて、どうしようか。
この目の前にあるクレープ。
そんなふうに困惑していたら、奏ちゃんがうるうるとした視線を向けてきた。
「食べてくれないの。あーんをしてみたいんだけど」
しまいにはこんなことまで言ってくる。
「じゃあ口移しで」
「だめーっ!」
綾の叫び声が木霊する。
「ちょっと綾ちゃん。さすがに冗談だって」
綾がほっと一息つく。
「でも、綾ちゃん。私は春くんが好きだから。これは冗談じゃないよ」