1-14 小平 真由
結局、僕の寝坊のせいで、少し急ぎ足で学校に向かうこととなる。
「直、ごめん」
「ん、いい」
僕が謝ると、直は気にしないでというような無表情。
いつも通りの表情だと思いほっとする。
「春、今日もいい天気」
「そうだね」
空を仰ぎみると、雲ひとつない快晴。
秋の空は、直がスケッチしたくなるぐらいに晴れ渡っている。
おもわずずっと見ていたくなるような空だったが、早く学校に行かなくてはならないと思い顔を戻す。
が、その瞬間。
交差点に差し掛かっていたせいか、誰かにぶつかってしまった。
しかも、相手に乗ってしまっている。
「さ、坂本」
「小平さん」
ぶつかった相手は小平真由。
彼女は綾の親友だ。
なのに、僕とは相性の悪い女の子で、誤解されている面が多々あったりする。
「そうやってぼーっとしてるから」
「ごめん」
「謝ればいいってもんじゃない」
「そうだね」
そう返事すると、チョップが降ってきた。
「いたっ」
さすが空手を習っているだけあり、女の子にしてはダメージの残るチョップをする。これがスキンシップだとしたら、たまったもんじゃない。
「いたっ、じゃないって」
腕を組みながら小平さん。
ショートカットの髪が風になびく。
「まあ私も急いでいて走っていたんだから、半分くらいは悪いんだけどさ。でも、空見てるのは前方不注意すぎ」
と、小平さんは言う。
僕が何を言おうか考えていると、直が口を開いた。
「真由」
「あ、直。おはよ」
「ん、おはよ」
あいさつをする二人。
「で、どうしたの?」
「半分は私が悪いの」
「えっ、何が?」
「春のこと」
直が僕をかばおうとしている。
「なんで?」
「私がいい天気って言ったから」
「そうなの?」
「そう」
「でもね、直。ぼけーっと空見てぼんやりと歩いているのはないと思うわけよ。そう思わない?」
「そうかな?」
「そうだよ。こんな忙しいときに、あっ、そうだ。遅刻する」
「ほんとだ」
二人のやり取りをぼんやりと眺めていたが、たまらずに声を出していた。
「ほんとだ、じゃないって」
「でも、ほんとなんだけど、ね、直」
「ん」
直がゆっくりとかぶりを振り、すべてを見通してしまいそうな一重の奥ゆかしい瞳でこっちを見つめてくる。
「もう、坂本兄妹のんびりしすぎ。この脱力系兄妹」
「そんなことないよ」
「ん」
「だぁから、そんなこと言ってないで」
腕時計を見て、小平さんは直の手をひっぱる。
「さあ、急ぐよ」
「あ、真由」
直が声をあげた。
でも、小平さんは直をひっぱることを止めない。
瞬く間に、僕と二人とのあいだで距離ができる。
「ほら、坂本も早く」