1-14 お弁当と相談と
昼休み。
綾がお弁当を作ってくれているというので、僕は屋上に向かう。
いつも使う階段を利用して、屋上へのドアノブを回す。
ドアが開くと、眼前いっぱいに広がる爽快な秋晴れ。
人はほとんどいない。
ついでに言うと、綾もまだ来ていない。
なので僕は、富士山が一望できるスポットまで行く。
そこでぼんやりと景色を見やる。
「いい景色だ」
いつもここで告白されているんだな、と思ってしばらくそうしていると、いつのまにか綾が来ていた。
「春、待った?」
「待ってないよ」
「そう。良かった」
「というか、こうやって待っている時間が僕は好きなんだ」
「ふーん。なんか春らしい」
綾はなぜか納得したような表情を浮かべている。
「綾、それで僕に何を相談するの?」
「あ、うん。正しい断わり方のことなんだけど。でも、それよりも先に、私の作ったお弁当を食べよ」
綾が屋上に併設されている青いベンチを指し示す。
「座ろっか」
綾の言葉にしたがって、僕達は青いベンチに腰を下ろす。
綾はお弁当の準備をしていて、僕は待っているだけだ。
手持ちぶさたになっているので綾の様子を見ていると、徐々にお弁当の全容が明らかになってきた。
「今日はこの前と違って残り物なんだけど」
綾は弁明するが、しっかりとした弁当である。
煮物に卵焼きにといった定番のメニューがあって、他にもいろいろと入っている。
「でも、この前よりはお弁当っぽいよ」
「あー」
苦笑する綾。
「この前はちょっとがんばりすぎだったよね」
「やっぱりそうだったんだ」
「うん。それでハードル上げられても困るけど」
「いや、ハードルとかは関係ないよ。綾が作ってくれるのならなんだって構わないから」
「あっ、えっと」
綾はなぜか顔を赤くする。
「と、とにかく早く食べなさい。春」
綾が箸とお弁当を渡してくる。
なので、僕はそれを受け取る。
「いただきます」
「はい、どうぞ」
青空の下、綾が作ってくれた弁当を食べる。
「うん、やっぱりおいしい」
「ありがとう、春」
そして食べながら、小平さんのことを相談する。
「春、どういうふうに断わればいいんだろう」
「うーん」
前から考えていたけど、結論は出ない。
あれやこれやと議論を交わしても、全然まとまらない。
「どうしようか、綾。アドリブだけじゃ大変だと思うし」
「うん。私もそう思う」
お弁当も食べ終えた僕達は、腕を組んで頭を悩ます。
考えすぎて頭が回りそうだ。
「そうだ」
「どうしたの? 綾」
「具体的な解決策じゃないけど、いいことを思いついた」
「え? ほんと?」
「うん。図書館を利用して参考になる本を探してみようかと思うんだけど」
図書館か。
最近になってとみに利用する機会が多くなっている。
「どう? 春」
「うん。いいんじゃない」
「でしょ」
「じゃあ、放課後にでも行こうか」
「いいの?」
「もちろんだよ」
「ありがとう」