3-18 邂逅
夕日が地平線の彼方に消え、辺りはすっかり暗くなった。
文化祭を満喫した僕達は、自転車に乗って帰路についている。
前の遊園地の時とは違い、無事二人で帰っていることにささやかな幸せを感じてしまう。
「先輩、今日は楽しかったですね」
あの衝撃の告白の後も、絵里ちゃんの態度はまったく変わらない。
まるであんなことなどなかったみたいに振舞っている。
そして、それに不自然さを感じない。
「高校の文化祭、最高でした」
「そうだね」
僕は相槌を打つ。
けど、脳裏によぎるのはさきほどの出来事。
思えば、女の子に告白されたのは人生で初めてだ。
しかも、僕はそういう機会には縁がないものだとずっと考えていた。絵里ちゃんの好意は感じていたのだが、それは親しい先輩後輩の間柄だと思っていた。
ともあれ、絵里ちゃんは愛想のよくない僕に対して、いつもネコみたいに懐いてくれた。
基本的に直しか信頼しない僕に、土足でずかずかと入りこんできてきた女の子。
それが絵里ちゃんだ。
おかげでここまで親しくなれた。
「先輩」
絵里ちゃんが僕を呼ぶ。
「何?」
「私、次の機会があればですね」
「うん」
「動物園デートがいいです」
絵里ちゃんがキラキラとした瞳でこっちを見る。
「動物園デート?」
「はい」
僕はそれを見て、なんだか意地悪いことを言いたくなってくる。
なぜだかわからない。
けど、そういう気持ちになった。
「あのさ、絵里ちゃん」
「はい」
「僕は動物と相性良くないんだ。だからさ、無理みたいだよ」
そんなふうに意地悪く告げる。
すると、絵里ちゃんは頬を膨らます。
「もうっ、そこでそんなこと言うんですか」
さらにはチリンチリンとベルを鳴らし抗議をする。
いつもと変わらない。
普段通りのやり取り。
「あ、先輩。うちの学校が見えてきましたね」
「ほんとだ」
ここから絵里ちゃんとは左右の道に別れる。
なので、今日の一日を思い返す時はここまで繋がってくるのだろう。
「先輩、今日はありがとうございました」
律儀にも自転車から降りて礼をする絵里ちゃん。
「いえいえ」
こっちもつられて同じことをする。
「私、とても楽しかったです」
「僕もだよ」
それは本心からの気持ちだ。
前回と同じくらい楽しかった。
「それでは先輩、さようなら」
「うん、じゃあまた」
こうして僕達は別れていく。
別れた後は、若干の名残惜しさを感じながらも自転車を走らせる。
車の往来の多いイチョウ並木を通り、ある交差点で信号に引っかかる。
「あ」
ふいに思い出す。
ここは綾がいきなり駆けだしていって、べぇ、と舌を出した場所。
あの時の綾は、まったくもってお嬢様らしくない走り方だった。
「青だ」
回想に浸っていたら、いつのまにか信号が変わっていて驚く。
隣のいた人なんかはすでに横断歩道を渡りきっていて、どうやら僕一人が取り残された感じだ。
音楽までも急ピッチで鳴り始め、信号が点滅していく。
なので僕は、急いで渡ろうとペダルを漕ごうとする。
「?」
が、まさにその時のこと。
僕の肩を控えめに叩く人がいた。
何事かと思い、隣を見るとどこかで見たことのある女の子が立っている。
特徴的なおさげ髪に、すべてのパーツが小さな女の子。
と、女の子が口を開く。
「あの」
「はい」
「もしかして春くん?」
その瞬間、僕は前に夢で見た女の子だと確信する。
そう、確信だ。
それはなぜだかわからない。
そして、いきなり胸の中に去来した不思議な感情にも説明がつかない。
けど、うすらぼんやりとしたイメージから明確に輪郭が整えられていく。
「私の初恋の人。ずっと好きだったし、今も好き」
「え?」
彼女がふんわりと微笑む。
「私、貴方に会いたくて、イチョウ並木のこの街に帰って来るんだ」
そう言って、僕の頬に軽くキスをする。
作者の技量が足りなく、続きエンドで申し訳ありません。
ですが、とりあえず第二章までを完結にこぎつけました。もちろん第三章は、少し休んでから書きます。
にしても、正直、ここまで長くなると思いませんでしたね。
春と綾は、書けば書くほど距離が遠ざかるという不思議な特質を持っているみたいで。絵里ちゃんの告白と新しい女の子がトリガーになってくれればいいんですが、まだ話の道筋が見えていないのでそこのところはわかりません。
ていうか、プロットを作れって話ですよ。
まあ、それはともかくとして、こんな作者に叱咤激励や感想をくれるととても喜びます。
また、この作品にはたくさんの女の子(年上が多い気がするけど)が出ていますが、どの女の子が皆様の好みなのでしょうか。
ファン投票とかではないんですが、それを書いてくれると今後参考になるかもしれません。なので、ぜひ一言、気軽にお願いします。