3-16 文化祭(8)
お化け屋敷を抜けた後、僕達はちょっとした休憩を兼ねて、展示されている作品群を一挙に見て回ることにした。
例えば、文化祭に向けて作られたと思われるポスターやイラスト。これらはどれも出来が素晴らしく、細部までこだわるレベルの高さに感銘を受けた。
他にも、写真部や漫研部、美術部などの作品も見学した。
特に美術部の自作ピクトグラムコーナーは面白くて、一定のルールとアルゴリズムを感じさせてくれるセンスの良さに何度も脱帽させられた。
展示を存分に鑑賞した後は、ちょうど開演されていた吹奏楽の演奏を堪能した。
絵里ちゃんは聞き入っていたみたいだけど、僕は眠くなってしまい舟を漕ぎかけてしまった。もちろんそれは内緒だ。
演奏の次は射的や輪投げなどがやっている場所で楽しんだ。
絵里ちゃんは射的が上手で、いくつも的を命中させていた。
絵里ちゃんの意外な一面を発見した瞬間だった。
「先輩」
景品を手にした絵里ちゃんが、機嫌良く僕を呼ぶ。
「何? 絵里ちゃん」
「もう大方回りましたね」
「そうだね」
「次はどうしましょうか。どこかありますかねぇ」
「そうだなぁ」
もうだいたい目星をつけたところは回った。
正直なところ、そろそろ潮時である。
と、そんなふうに考えこんでいたら、いつのまにか二人組の女の子に囲まれていた。
「こんなところで悩んでいるお二人さん」
「ちょっと一緒に踊っていきませんか?」
とにかくテンションの高い二人組。
しかも、格好は奇抜でバニーガールだ。
おもわず警戒して、一歩後ろに引いてしまう。
「おっと、私達、怪しいものでありません」
「だけど、ただの人間には興味ありません」
「宇宙人、未来人、超能力者がもしいたら」
「あたしのところに来なさい、ではなくて」
「ただ、単純に踊りたい人間を探してます」
「むしろ、踊りたくない人間も探してます」
あまりのノリについていけない。
なので、僕達は言葉が出ない。
「真菜。だからこんな恥ずかしい誘いは止めようって言ったんだよ」
「桜。そんなこと言ったってさ、ここまで来たら止められないってば」
なんだか打ち合わせの声が聞こえる。
そして、さっきのノリでまた始まった。
「うちは自由に部を濫立する共学校」
「だからマイナーな部でも生き残る」
「私達二人はフォークダンシング」
「フォークソングではナッシング」
「ジェンカにオクラホマミキサー」
「フラメンコにマイムマイムなど」
「「さあ、私達と一緒に踊っていきませんか~」」
唱和しながら、鏡合わせのようにポーズを取る。
プロのミュージカルなどがよくやるあんな感じで、ただの勧誘にしては派手すぎるほど派手だった。
「真菜。こんなことしてるから一人も勧誘できないんだよ」
「桜。今頃気づいたってさ、もう遅すぎるほど遅いってば」
今度はずーんと落ち込む二人組。
絵里ちゃんと僕は、おもわず顔を見合わせる。
それにしてもフォークダンスか。
今まで機会があまりなかったけど、この文化祭の日にやってみるのもありかもしれない。
「絵里ちゃん」
「なんですか?」
「これ、最後に参加してみよっか」
「いいですね。私も同じこと思っていました」
「そうなの?」
「はい。ラブラブイベントのチャンスです」
「ラブラブイベントですか」
なんだか主旨が外れているような気はする。
けど、とりあえず落ち込んでいる二人組に声をかける。
「あの」
しかし、話を聞いてくれない。
あいかわらず嘆いている。
「真菜。私達は今、ゴミ以下の存在だよ」
「桜。官能小説でも読んで元気だそうってば」
ここでも官能小説とは。
おもわずツッコミを入れそうになったのを堪えて、また声をかける。
「すいません」
「えっと、私達ですか?」
「いや、貴方達以外に誰がいますか」
「あ、そうですよね」
二人同時にこくこくとうなずく。
「で、なんでしょうか?」
「なんでしょうかではありませんよ。僕達、踊りに参加したいのですが」
「「え?」」
またもや二人同時に驚く。