3-14 文化祭(6)
時折、聞こえてくる悲鳴と泣き声。
それがお化け屋敷のおどろおどろしい雰囲気に拍車をかけている。
待っている最中もさんざん聞こえてくるその声に、だんだんと恐怖が募っていく。
僕達も会話がいつの間にかなくなっていて、悲鳴や泣き声があがるたびに互いの顔を見合わせているだけになった。
出てきた人は、胆を冷やしたような顔をしていて放心状態。
それほどの恐怖だったのだろうか。
想像するだに恐ろしい。むしろその想像が劇的に良くない効果をもたらしているのかもしれない。
「せ、先輩」
ごくりと唾を飲み込む絵里ちゃん。
その様子が手に取るようにわかる。
「次の次ですね」
「うん」
「怖そうです」
絵里ちゃんは器用に身震いをする。
すると、こっちまで身震いが移ってしまう。
「根拠はないけど大丈夫だよ。興行だし」
ともあれ、ここのお化け屋敷は興行として大成功みたいだ。
噂にもなっているのか、最後尾の列はどんどんと伸びていく。
「そうですね。楽しませるためのお化け屋敷ですので、それを考えればへっちゃらですよね」
とはいうが、顔は引き攣っている。
同じアトラクションでも、ジエットコースターに乗る時の余裕みたいなものは微塵も感じられない。
むろん、僕も人のことは言えず、余裕はない。
そしてそんなことを思っているうちに、順番がまた一つ進んだ。
「次みたいだね」
「は、はい」
びくびくした絵里ちゃんの声が聞こえる。
その声を聞くと、やはり非常に怖がっているようだ。
「はい、次の人どうぞ」
係りの人に促されて、僕達は中に足を踏み入れる。
恐る恐るといった感じだ。
ちなみにここのお化け屋敷のルールとして、いくつかのお札が渡されている。
亡き患者達の魂を鎮めると弔い師という設定なので、お札を決まった場所におかなくてはならない。
すでに後ろに張り付いてくる絵里ちゃんを従えて、僕は前に歩を進める。
道は狭くて、薄暗い。
明かりもないに等しい。
本当にお化け屋敷の王道といった雰囲気を醸し出している。
「せ、先輩~」
絵里ちゃんが情けない声を出す。
僕はそれを聞いて、少しばかり余裕が生まれてくる。
「腰が、腰が抜けそうで」
「まだ始まったばかりじゃないか」
けど、僕がそう言って後ろを振り向いた瞬間、ゆうらりといった調子で幽霊に扮した係りの人が現れた。
般若みたいな顔をした幽霊が、無言で絵里ちゃんに近づく。
パーソナルスペースもすでに超えている。
「絵里ちゃん」
「え?」
「後ろ」
僕が意地悪にも指摘すると、絵里ちゃんは振り向いてしまう。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁあああああああああ!」
そしてすごい悲鳴をあげる。
さらにはお約束なのだろうか。
事前に宣言していた通り、絵里ちゃんが抱きついてきた。
役得もいいところだったけど、そっちの方の余裕はまったくない。
なので僕は、絵里ちゃんを控え目に受け止めておく。
「先輩、先輩、先輩っ」
「落ち着いて。絵里ちゃん」
案外、自分でも落ち着いていられるのが不思議だ。
平常時となんら変わりはない。
「落ち着いてなんていられませんよ。お化けが私の後ろに立っています」
「そうだね」
「って、先輩はどうしてこんな状況でのんびりしているんですか。私の状況を鑑みてもそんなに落ち着いていられないと思うんですよ。あ、幽霊がこっちに来ます!」
涙目の絵里ちゃんが慌てて前に駆けだし、今度は違う幽霊に脅かされる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁあああああああああ!」
「……」
どうやら存分に楽しんでいるみたいだ。