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1-12 直の甘え

 





 いろいろあった一日を終え、就寝の時が近づく。

 今、僕達二人は一緒に布団を敷き終えたところ。

 

 直は、もうすでにパジャマへと着替えはじめている。

 直はこの年になっても、僕の前で着替えることに無頓着である。流石に下着類の着替えはしないけど、服の場合は平気で着替えてくる。

 

 なので今も、パンツとブラの格好。

 これは困ったものだ。

 もう少し羞恥心を持ってほしい。

 

 そして布団の距離も、この狭い部屋のせいなこともあってか、それなりに近い。感覚としては一緒に寝ているようだ。

 

 着替えを終え、僕と直はうつぶせになって寝ころぶ。

 これも寝る前の軽い決まりごとみたいなもの。

 こうして寝るまでの間、いくつか会話を交わす。


「そうそう、直」


「ん?」


「近いうち大きな地震が起こりそうなんだって」


「えっ」


「これ鳥子さんが言っていたんだけどさ、彼女手品だけではなく予知もできるのかと――あれ、直?」


 そのきれいな足でシーツのしわを伸ばしていたはずの直が、見れば固まっていた。


「地震怖い」


「直、そんなに地震苦手だったっけ?」


「うん苦手」


 たしかにこの東風荘はぼろくて心配だ。

 へたすれば全壊すらあり得る。


 しかし、もしその可能性があれば、鳥子さんがちゃんと伝えてくれるのだろう。

 だから、楽観的に考えてしまって問題ない。


「直、きっと大丈夫だよ」


「ほんと?」


「うん。もし東風荘が危険だったら、鳥子さんがみんなに注意してくれるから」


「そっか」


 直は落ち着いたのか、ほっと息を吐く。


「ていうか、不安がらせてごめん」


「ん」

 

 もしかしたら余計なことを言ってしまったのではないかと反省する。でも、いきなり地震が来てもあれだしな、と思い悩む。

 そしてそんなことで悩んでいると、直にそっと手を握られた。


「春」


「どうしたの?」


「五センチだけ近くによっていい?」


 直の遠慮したような声。


「えっ、いいけど」


 僕がそう言葉をかける。

 すると、直はいそいそと布団を近づけてくる。

 まるできっかり定規で図っているかのような慎重さにあふれた動きだ。


「あの、もう五センチいい?」


「うん」


「もう五センチ」


「うん、いいけどさ。一気に寄せていけばいいんじゃない?」


「ううん。少しずつ寄せていった方が幸せ」


 直が普通の人には幸せには見えなさそうな表情でそう言った。


「そうなんだ」


「ん」


「僕にはわからないけどなぁ」


 それから直は何度も五センチずつ寄せていき、結局布団はくっついた。

 そして完璧にくっついたところで電気を消す。


「ねぇ、春」


「なに?」


「たまにはね」


「うん」


「お兄ちゃんって呼んでもいい」


「えっ」


 僕が驚いたせいか、直が小動物みたいにびくっと震えた。

 そして直のすべてを見透かしそうな瞳が、一瞬だけゆらいだ。


「やっぱりいい」


「いいのに」


「いいって」


 直はぷいと横を向いて、布団のはしまで行ってしまう。

 それでは布団をくっつけた意味がないじゃん、と僕は心の中で思うに留まった。






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