3-8 ジモティーズ(3)
体育館に戻ると、もうすでに全体練習が始まっていた。
なので、岩崎さんと僕は急いで合流する。
そして、それをこなした後は相手方との試合。
今日は竹内さんの知り合いが多いおかげか上手い人が結構いて、相手チームとは接戦になった。
けど、やはり素人が多いジモティーズが僅差で負けてしまう。
「先輩、負けました」
「まあ、しょうがないよ」
「そんなことないですよ。勝てそうだったのに、私がミスしたせいで負けちゃったんですから」
「絵里ちゃんいいって」
竹内さんが絵里ちゃんを慰める。
「私はみんなが楽しめればそれでいいから」
「でも」
「でもも何もないよ。それとも絵里ちゃんは楽しめなかったの?」
「そんなことないです」
「じゃあ、そんなに悲しまないで。ね」
「はい。わかりました」
竹内さんの優しさに、絵里ちゃんにも笑顔が戻る。
やはり絵里ちゃんは切り替えの早い女の子。
さっきまで落ち込みかけていたのに、今は嬉々として片づけをしている。
「そういえば先輩」
「ん?」
「さっき岩崎さんに呼ばれていたのは何だったんですか?」
「あ、気になる?」
「はい。私、気になります」
絵里ちゃんがボールを片付ける手を止めて聞いてくる。
キラキラと輝く瞳が僕を射抜く。
「それはね、岩崎さんが通っている高校の文化祭の優遇券のことなんだ」
「文化祭の優遇券ですか?」
絵里ちゃんは首をかしげる。
「そう。岩崎さんが僕に二枚くれたんだよ。女の子と一緒に来なさいと制約をつけてまでしてさ」
「え?」
なぜだか放心している絵里ちゃん。
「えっと、どうしたの?」
「二枚? 女の子と一緒にですか?」
「うん。そうだけど」
僕はうなずく。
絵里ちゃんは何やら思案しているようだったが、やがてかしこまったように口を開く。
「あ、あの、先輩っ」
ますますキラキラと輝く瞳。
さらには僕の手をがしっと握ってくる。
「私、秘密のデートの続きを所望します」
「秘密のデート?」
「文化祭デートです」
「あ」
僕はすべてを思い出す。
絵里ちゃんを前にして、もう一度満足がいくデートをする約束をしたことを。
前回の償いも込めて、絶対にしなくてはいけない。
「先輩。もしかして忘れていました?」
「えっと」
しかも、しっかりと見抜かれている。
「それはちょっとひどいと思います」
「僕はそう思うよ」
忘れっぽいにしても度が過ぎる。
鳥頭もいいところだ。
「そういうわけで先輩。承諾してくださいね。あ、それとも綾さんと行きたかったりしますか? それなら私遠慮しますけど」
不安になったのか、絵里ちゃんがそんなことを聞いてくる。
「絵里ちゃん」
「はい」
「綾とはそういう関係じゃないんだ。それに綾は家の用事が忙しくて一緒に行けないと思うし」
「それなら、私でいいですか?」
「絵里ちゃんがいいなら、こちらこそ喜んでだよ」
「ほんとですか?」
「うん」
「やったぁっ!」
絵里ちゃんは飛び上がらんばかりの勢いで跳ね上がる。
周りの人が何事かと見てくるので、僕は恥ずかしくなってくる。
「先輩。楽しみにしてますね」
「あ、うん。僕も楽しみにしているよ」
その言葉に偽りはない。
学校見学も兼ねて、実りある秘密のデートになるのかしれないと僕は思っている。
もうすでに、楽しみになっていたのだから。