1-11 直の心配
地震を予知するあいかわらずな鳥子さん。
その存在に驚き、それから少し世間話をした後、竹内さんとの電話を切る。
「地震かぁ」
地震は、しばらくお目にかかっていない。
けど僕の記憶では、直が極端に苦手だった。そういえば、怖いもの知らずの美咲さんも苦手を公言していた気がする。
にしても鳥子さんは、手品だけでなく予知までしてしまうとは驚きだ。
なので、今までにそういう場面があっただろうかと思い返してみる。
するといくつか覚えがあった。
鳥子さんは、経済の変化、外国で起こる紛争やデモ、運気の流れなどを予言していた気がする。
「と、鳥子さん……」
やはり、彼女は間違いなく凄い人。
なぜこの荘にいるのかがわからなくなるくらいだ。
もうこうなったら、林檎の置物を水晶変わりにして、占い師でも始めた方がいいんではないだろうか。
そんなふうに物思いにふけっていたところ、直に声をかけられた。
「春、電話終わった?」
「あ、うん」
「誰? 綾?」
綾であってほしいとでもいうように、直が聞いてくる。
「違う?」
「うん、違う。竹内さんだった。『ジモティーズ』の集まりのことを言い忘れていたらしくて、その連絡」
「そうなんだ」
「そう。来週の集まりにはさ、規定人数ぎりぎりの六人集まれるかどうかわからなくて困っているらしいんだ。それで、たまには直も行く?」
運動があまり得意ではない直も、何度か『ジモティーズ』には参加している。もっとも僕だってそうなのだが、身体を動かすのは好きかどうかの違いはある。
「で、どうする?」
「ん。当日までに考えとく」
直がそう言い、僕は頷いた。
そして就寝までの間、ゆっくりとした時間が流れる。
テレビのニュースではまた地元の事件のことをやっていて、髪切りにあった女の子たちの被害状況を詳しく解析している。
ニュースによると、女の子達は通りすがりに刃物を突き付けられて、髪を切られたのこと。
手口は皆一緒で、夜道の一人歩きには気をつけてくださいとの喚起がなされていた。
「春」
「なに?」
「春も気をつけて」
そう言われて、僕はどきっとする。
「どうして?」
「春と私は似ている」
「うん」
「だから、女の子と間違う人がいる」
そう、直と僕はよく似ている。
わりと僕の髪が長めなのもあり、昔から女の子に間違えられることが多かった。
「でも、今は大丈夫だよ。間違えられることも少なくなったし」
「そう?」
「そうだよ。最近はそんなことないでしょ。それに髪質を見れば女の子だと思うこともないんじゃないかな」
ここが矜持だとばかりに、一生懸命抗議する。
「ん、そうだね」
おかげでか、直も納得したように頷く。
「むしろ直の方こそ気をつけてよね。ふらふらとスケッチしていてそのまま被害にあった、なんてことになったら大変だしさ。それに美咲さんじゃないけど、直が狙われる可能性はかなりあるんだよ。直の髪はきれいだから」
「えっ」
無表情で驚く直。
「いや、ほんとのことだからさ」
「ん。褒めてくれてありがとう」
「そうじゃないんだってば」
「とにかく気をつけようね」
「そうだね。って違うんだけどなぁ」