2-19 ハロウィン(6)
家に戻って一番最初にしたのは、たくさん貰ったお菓子を区分けすることであった。
種類はハロウィンに関するものが多かったけど、それでもいろんな種類のお菓子が手元にある。
キャンディー、ガム、ビスケット、クッキー、チョコレート、パイなどと、例を挙げれば枚挙にいとまがない。
「坂本、それにしてもずいぶん集まったね」
隣で作業をしている小平さんが言う。
「そうだね」
「もしかしてこれ、今日中に全部食べきるの?」
「いいや、それは無理だって」
「うん。言ってみて私も無理だと思った」
「そうだよ。それにこれから鍋パーティーをするんだし」
「その鍋パーティーなんだけどなんなの?」
「それはただの鍋パーティーだよ」
「ただの鍋パーティー?」
「そう。ただの鍋パーティーさ」
小平さんと僕は適当なことをしゃべりながらも作業を続けていく。
直はいつのまにかお菓子の山のスケッチをしている。
「よし、終わった」
「終わったぁ、坂本」
やがてその作業も終わり、好きなお菓子をつまみながら歓談となる。
その間、僕は台所で鍋の準備をこなしていく。
鍋を用意をするのはお客さんがいるから僕になる。
直が当番を担当する宣言して以来、しっかりとした料理を作ることはなかったので久しぶりの機会だ。
「春坊、今日はハロウィンパーティーにちなんで闇鍋しようじゃないか」
向こうから美咲さんの声が聞こえてくる。
美咲さんと鳥子さんは、すでにお菓子を肴に乾杯をしている。
「だめです。何の関連性もないじゃないですか。それに僕の目が黒いうちはそんなことはさせません」
「えー。この鍋奉行」
「美咲さん、それは意味が違うと思いますけど」
「いいの。私がそういう意味だと思ったらそういう意味」
「どんだけ自分中心なんですか」
「だって私だもん」
美咲さんの戯言を聞きながら、僕は料理をする。
鍋の準備を整えるのには十分とかからない。
なぜなら事前に仕込みをしていたからだ。
「出来ましたよ」
「出来た?」
テーブルに鍋を持っていく。
いつもどおりたくさんのホウレンソウと、オリジナルのカボチャ、それと美咲さんから貰った仕送りの品をふんだんに使った鍋だ。
「熱いから気をつけてくださいね」
「うぃーす。やっぱ締めは鍋だよ」
チューハイをすでに何本も開けている美咲さんが言う。
「そうですね。私も、みなさんでやるこの鍋という囲みがなぜ活力の源になっているのか不思議でなりません」
鳥子さんも納得したようにうなずく。
「小平さん。この調子だと遠慮すると無くなっちゃうから気をつけて」
「うん」
小平さんも待ちかまえている。
「では、準備が整いましたのでいただきます」
「「「「いただきます」」」」
唱和して、僕達は箸を手にする。
仮装をしながら食べる鍋はなんだか違和感でいっぱいだ。
けど、特別な日になりそうな気がしている。
今日一日を思い返した時にも、きっとそう感じるだろう。
「そういえば去年もこんな感じでやったよな」
美咲さんが言う。
「そうですね」
僕は答える。
「坂本、ハロウィンパーティーは去年もやったの?」
小平さんが僕に聞く。
「うん、やった。たぶんこれは毎年の恒例なんだ」
「そうだね。これは毎年の恒例だな。真由っち、来年またやりたかったら来てよ」
「えっと、考えておきます」
小平さんは無難な返事をする。
それを聞いた僕は、小平さんに質問をしてみる。
「あ、小平さん」
「何?」
「今日は楽しかった? 僕がむりやりさそったようなものだから」
「そんなことないって。私がむりやり来ちゃったようなものだし」
少しだけしおらしい小平さん。
「それに本当に楽しかったし、今でも楽しんでいる」
「そっか」
「でも、上杉さんの宇宙人並みのバイタリティーにはやっぱり困惑しているけど」
「へぇ。宇宙人か。それは納得な表現だね」
「そうでしょ」
顔を見合わせて笑い合う。
僕は小平さんとの誤解が無くなって、少しは親しくなれたような気がした。
ただ、安請け合いしてしまった難題が残っていたけれど。