2-17 ハロウィン(4)
予定した時間がやってくるまで、四人で適当に話をして待つ。
内容はざっくばらんでとりとめのないことに終始していたけど、ハロウィンパーティに向けての高揚もあってか、やけに話しが弾んだ。
特に美咲さんの大学の友達の話は、中学生の好奇心を刺激するのに十分なほどだった。また美咲さんの話し方も上手くて、必要以上に感心させられた。
やがて時間が過ぎていき、十九時半。
家の古臭いチャイムがようやく鳴る。
「はいはい」
僕は反射的に返事をする。
「よし、春坊行って来い」
「わかりました」
きっと鳥子さんが来たのだろう。
僕は玄関に向かう。
「今、開けますよ」
宣言通り、ドアを開ける。
けど、目の前に誰もいない。
「あれ? 鳥子さん?」
おかしいなと思い、外に出てみる。
すると、ドアに隠れていた鳥子さんが勢いよく出てきた。
「わっ」
「うわぁ」
僕は驚き、声を上げる。
尻もちもつきそうになった。
「何をするんですか、鳥子さん」
「何をするんですかと問われましても、私自身が何をしているのかは明確にはわかりませんが、とりあえずこんばんは、春くん、とでも申しておきましょうか」
「はぁ、こんばんは」
お決まりの鳥子さん節に、僕は多少うろたえながらもそれに応える。
そして鳥子さんの格好に注目する。
「鳥子さん」
「はい、なんでしょう」
「モチーフは魔法使いですか」
「一概にしては言えません。ですが、貴方にはそう見えますか?」
「見えますね」
鳥子さんはいつもの黒一色の衣装。
それは変わらないけど、とんがりハットをかぶっている。
これこそが魔法使いに見える要因である。
「それにしても、やけに似合いますね」
僕は思ったままの感想を口にする。
「ありがとうございます、春くん。それはそうと貴方の格好は何をモチーフにされているのでしょうか?」
「僕?」
「はい」
「それは僕にもわからないんだ」
「わからないですか。でも、わからないことも悪いことではありませんよ。わからないことは自分の感情を整理するのに一番大切な心の在り方ですから」
「そうですか」
「はい」
そんなことを言われても、鳥子さんの前にさらしているのがムンクの叫びみたいなお面ではどうしょうもない。
つまり、格好がつかないというやつである。
「まあ、それよりも中に入ってください」
「そうですね」
鳥子さんが上品に靴を脱いで、中に入っていく。
もちろん中にはみんな集まっている。
「みなさん、こんばんは」
会釈して、美咲さんの隣に座る。
鳥子さんはずぼらな美咲さんと違い、座り方も丁寧だ。
「特にそちらのお嬢さんは、私の記憶が確かでありましたら初めましてですね。私は野々垣鳥子と申します」
小平さんに名刺を渡す鳥子さん。
その動作も完璧だ。
「あ、はい。初めましてです。私は二人の友達で小平真由といいます。今日は特別参加させていただきます。よろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いしますね」
丁寧な自己紹介を終えたのを合図に、美咲さんがやにわに立ち上がる。
自分の頬をパンパンと叩き、気合を入れている。
そして、僕達の顔を見渡してから大きな声で告げる。
「さて、やっと鳥子も来たことだし、ハロウィンパーティーの始まりだよっ」