退職の神様
短編です
「初めまして、あなたの担当神です」
なんて言われて、皆さんは「はいそうですか」と受け入れられるだろうか?否、多分無理だろう。
よれよれのスーツを着た、髭もじゃの、幸薄そうなおっさんが目の前に現れてそんなことを口走ったら、新手の宗教勧誘か何かかと、思っちゃうよな。俺は真っ先にそれを疑った。でも、このカミサマは名刺まで渡してきて、作りこみが半端なかった。
「あなたの人生のサポートをしてきたのですが、私の契約が切れるにあたって、退職金の有無にかかわる、“担当した人間の幸福度”を確認して報告しなくてはいけないんです」
昼日中に公園に座って、缶酎ハイ飲んでるおっさんが、幸せかって?
俺は堰を切ったように、今まで俺がいかに不幸だったかをまくしたてた。
中学の頃、野球部だった俺は、期待に応えるため、練習に明け暮れていた。でもその練習の負荷が重すぎたのか、俺は肩を壊し、レギュラーから外されてしまった。
高校に上がった時、そのことが尾を引いて、俺はグレた。子供のころから野球選手になるのが夢だったのに、ソレをこんな早い段階で諦めなくちゃいけなかった俺の気持ち、アンタに理解できるか!?なぁカミサマ!
そのままヤンキー仲間たちとつるんだまま、高校を留年して、普通の同級生たちより二年遅れて卒業した。その頃、両親との仲は最悪だったから、大学にも進学できず、結局俺は就職を決めた。
勉強嫌いな俺には、卒業後すぐ就職するのがお似合いだったよ。でも入った会社が悪かった。いわゆるブラック企業で、新人と言えど残業が当たり前。上司に少しでも意見しようなら、平手が飛んでくるような、殺伐とした会社だった。でも学のない俺には、“退職”の選択肢を選べなかった。
精神を削りつつ、会社に通う俺は、次第に心を病んで、結局うつ病になって会社を強制的に辞めさせられた。
俺が辞めさせらた頃は、職員の人権なんてあってないようなもんだった。今は良いよな?辞めさせられたら、労基が出張ってきて、会社と裁判してくれるんだろ?俺の時はそんなのは選択肢にすらなかったからさ、会社理由の退職だったけど、慰謝料なんて考え突きもしなかった。
なぁ、アンタさ、俺の人生サポートしてたはずだよな?なんで俺の今まではこんなに不幸せだったんだ??
「・・・す、すみません・・・」
お前に謝られるためこんな話したわけじゃないよ。
「今からでも、何か幸せになれるようなことを探しませんか?」
お前の退職金の為に?なんで俺が。それに、別にもういいんだよ。
「そんな諦めたようなこと」
いや、本当にさ、いいんだ。だって俺は会社を辞めたおかげで、今の妻に出会えたんだから。
「へ?」
俺、会社辞めて、無職になってさ、やることもなかったから、ライブ配信っての始めたんだよ。もうなんか、身バレとかそんなんどうでも良くてさ、半分自暴自棄だったんだと思うけど。でもさ、配信ってやつで、人生の愚痴をぽろぽろ溢してたらさ、共感する奴らが増えてきて、次第にそいつらがフォロワーになってさ。
俺のクソみたいな人生でも、ちゃんと聞いてくれる人がいるって、気が付けたんだよ。んで、そのフォロワーの一人が、今の俺の妻。
だから、ずっと不幸だった俺の、幸せな人生ってやつは、これから来るんだよ。そう思うと、まぁ、今までの不幸も、仕方なかったのかな、って思えるよ。ありがとうな、カミサマ。あんたが本当に神様なら、とりあえず礼は言っとくよ。退職金、たんまりふんだくってやりな!
——“幸せ”とは——
ありがとう。




