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恋ってもっと、特別なものだと思ってた

作者: 猪口 零都
掲載日:2026/05/13

「菜月は高校どこ行くの?」


いつもの帰り道。

生徒玄関で偶然会って、なんとなく並んで帰ってる。


「S高かな」

「なんで?」

「制服が可愛いから」

「なんだそれ」


亮とは親同士の仲が良くて、お互いおむつ姿の写真もあるくらいのつきあいの長さだ。

だから女の子の友達といるより楽なところもあったりする。


「亮は? 高校どうするの?」

「S高!」

「なんで?」

「近いから!」


でも最近、亮は背が伸び始めた。

亮のお父さんが180センチある人だし、亮も運動部だから、まだまだ伸びるんじゃないかってお母さんが言ってた。


「適当すぎない?」

「制服で選んだ女といい勝負だろ?」


ちょっと前まで同じ高さで物を見てたのに。

見下されるのはなんか悔しい。


「あ! 3組の阿部さんが亮にフラレたって聞いたんだけど!?」


それ以上に、隣でうんち漏らしてた男(幼稚園の頃だけど)が、同級生にモテ始めてるのは、なんか悔しい。

……悔しい、というか、どこかモヤモヤする。


「あー、なんか言われたけど、話したことない子だし、そういうのよくわかんねーって言ったら、泣いて走ってったからフッたことになんのかな?」


首のあたりを掻きながら、亮は言う。


そうだろう、そうだろう。

あんたがいきなり恋愛脳になったら引くわ。


「俺、菜月と話してる方が楽なんだよなー」

「それわかるー。亮と話してると気使わなくていいもん」

「俺にも気使えよ!」


そんな話をしていた中2の帰り道。

私だって、カッコいいなって思う先輩はいる。

でもそれがイコール恋なのかはわからなかった。


「入学おめでと」

「おー、菜月もおめでと! 制服可愛いじゃん」

「でしょ?」

「間違えた。制服が可愛いじゃん」


そして15歳の春。


もしかして学校でイケメンに出会って恋しちゃったりして!?


なんて夢見ながらの初登校。

隣にはなぜか当たり前かのように亮がいる。


「にしても、教材重くない?」

「そうか? 余裕じゃね? ほら」

「わっ!?」


私の重くてパンパンなスクールバッグを、軽々亮は持ち上げた。

瞬間、突然軽くなった体が不安定に揺らぐ。


「おいっ! ……ぶねぇなぁ!」


亮はグイッと私の腕を掴んだ。

骨ばった、でも確かに大きな手。


ドクン、と心臓が脈打った。


……知らなかった。

こんなに手が大きかったなんて。

ずっと隣にいたのにーー

いつの間にこんなに変わっていたんだろう。


「お前ほんっと、危なっかしいよな? 目離すと怪我してそう!」


私の腕を引っ張り、ちゃんと歩けと亮は言う。


でも頭に入ってこない。


制服越しに伝わる体温が、じわじわと腕に伝わってくる。

さっきまで重くて嫌だった教材も、朝の人混みも、もう何も気にならない。


亮がいる。

こんなに近くに。


幼稚園の時、迷子になって一緒に泣いた亮。

小学校の時、夏休みの宿題が終わらないって最終日に叫んでた亮。

中学の時、……初めてクラスメイトから、カッコいい男の子と言われた亮。

ずっとずっと、一緒にいたのに、いつの間にか目線も体つきも変わっていた。


「亮のくせに生意気!!」


気づいたら、叫んでいた。

怒る理由なんてないのに。

でも他にどうすればよかったのか、わからなかった。


「はぁ!? コケるとこ助けてやったのになんだよそれ!」

「うるさいな!!」


心臓がバクバクうるさい。

顔もきっと赤い。

目もなんだか潤んできた。

ずっと当たり前だったものが、当たり前じゃなくなっていくような感覚。


恋ってもっと、特別なものだと思ってた。

運命みたいな出会いとか、一目見た瞬間に好きになるものだって。


でも本当は。


毎日の帰り道とか、くだらない会話とか。

そういうものの中に、恋は隠れているのかもしれない。


この日を境に、なんでも話せる幼馴染は、1番大事なことを伝えることができない男の子に変わっていった。

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