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入れ替わって知ったお互いの真実。殿下、元さやはありません! 公爵様がいますので  作者: ミカン♬


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1/8

1 アーシャの場合

 気が付くと、私は知らない場所にいました。


 頭にずきずきと、

 鈍い痛みが波のように押し寄せてきます。


「殿下! 気がつかれましたか?」


 殿下……?


 その言葉に、私はゆっくり瞬きをしました。


 私はアーシャ。

 ブラウン侯爵家の次女です。


 どうして「殿下」と呼ばれるの?


 ぼんやりした視界の向こうに、白衣の方が見えました。

 落ち着いた様子で私の様子を確かめています。


 きっとお医者様。


 そして、もう一人。


「エリック!」


 第二側妃のイザベラ様です。

 

 泣きそうな顔で、私の手をぎゅっと握りました。


「其方がそれほどまでにアーシャを憎んでいたとは。この母を許しておくれ」

 

 私はその様子をぼんやり見つめながら、ああ、と心の中で思いました。


 これはきっと夢なのでしょう。


 高熱に浮かされて、エリック殿下になった夢。


 今、私は肺炎にかかって、生死の境を彷徨っているのです。

 だからこんな不思議な夢を見るのも、おかしくありません。


 エリック殿下とは婚約して1年が過ぎました。


 けれど殿下は、私を遠ざけています。


 なぜなら、

 殿下が想っているのは、私の姉、セリーナなのです。


 でもセリーナには婚約者がいます。

 アーヴァイン公爵家の嫡男、シリウス様です。

 もう6年も前に、二人は婚約をしました。


 そして殿下は──

 無理やりに、私と政略婚を結ばされました。


 後ろ盾の弱い第二王子であるエリック殿下を支えるために、ブラウン侯爵家が選ばれた。


 ただ、それだけのご縁です。


 それに、世間での私の評判はとても酷いものです。


 頭の中身が2歳児並み。

 16歳にもなって、読み書きが出来ない愚か者。


 ……その通りです。


 私は、確かに読み書きが困難です。


 でも――


 決して、愚か者ではありません。

 本当は違うのだと、いつか証明したいと思っていました。


 けれど、

 宮殿でお会いする時は、いつもイザベラ様がご一緒で。

 殿下は……黙ってお茶を口にするだけ。

 直ぐに席を立たれてしまうのです。


 二人っきりでお話しすることはありませんでした。

 思い出すたび、胸の奥が締めつけられます。


 悲しいですが、

 もしこのまま私が死んでしまったら――

 きっと殿下は、ほっとされるのでしょう。


 ああ……。

 体中が痛くて、死にそうです。


 夢なのにどうして?


「痛い……」


 かすれた声が漏れました。


「鎮痛剤です」


 医師に薬を飲まされると、

 頭がぼんやりしてきました。


 遠くで、イザベラ様のすすり泣きが聞こえます。


 早く、この悪夢から抜け出したい。



 *



 次に目を覚ましたとき、息が止まりそうになりました。


 ――どうして?


 私は――まだエリック殿下の中に居たのです。


「鏡を……」


 ……信じられません。

 そこに映っていた顔は、確かにエリック殿下です。


 頭と顔の半分には包帯が巻かれていました。

 それでも、その端正な顔立ちは変わらない。


 黒い髪。

 薄い唇。


 そして──

 決して私を見てはくれない、青い瞳。


 どうして、こんなことが。



「私はエリック殿下ではありません。私は……」


 ――アーシャです。


 そう言えばどうなるの?


 殿下の体を乗っ取った魔女。

 そんなふうに、思われるかもしれません。


 医者は、頭の怪我のせいで混乱していると言いました。


 だから私は――沈黙することにしました。


 本当のことを言えば、もっと恐ろしいことになる。


 それでも。


 どうしても気になって、

 私はイザベラ様に尋ねました。


「アーシャはどうしていますか?」


 イザベラ様は少し驚いた顔をしました。


「其方が、アーシャを気にするとは珍しい。彼女は回復しつつあるようです」


 ――私は生きている。

 だからといって、嬉しくも悲しくもない。


 けれど。


 次の言葉が、私の心を深く刺しました。


「其方が死を選ぶほど、アーシャを嫌ったとは。

 分かりました。婚約は解消するよう陛下に話してみましょう」


 ……ああ。


 死を選ぶほど……


 殿下は自害しようとして、こんな大怪我を負ったのですね。


 涙が、勝手にあふれます。

 頬を伝って、次々と零れ落ちます。


 イザベラ様は、驚いたように私を見つめてから、

 そっと涙を拭いてくださいました。


「嬉しくて泣けるのか? 済まなかった、其方をこれほどまでに苦しめて」


 その優しい言葉に、胸が締めつけられます。


 だから、この機会に、私は訴えました。


「母上、私とセリーナ嬢は、深く愛し合っているのです。どうか、彼女との婚約を認めて下さい」と。



読んでいただいて、ありがとうございました。

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