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幕間:とあるショップ店員の限界妄想

 ――side. ランジェリーショップ店員(女)――


 私は、駅近くの大型ショッピングモール内にある女性下着専門店の店員だ。

 勤務三年目の二十六歳、店長からの信頼も厚く、最近は仕入れも任されるほどになった。


 我ながら業が深いと思うが、私は男も女もいけるクチで、とにかくイケメンと美女が大好物である。

 女性が来店すると、私は「いらっしゃいませ!」と爽やかに近づき、親身に相談に乗りつつ、そのお客様の魅力を限界まで引き出すであろう下着を全力でチョイスする。


 そして……それをお買い上げいただいたお客様が、その下着を着けて彼氏や旦那さんにアプローチしている姿を妄想し、一人で悦に浸るのが私の最大の楽しみなのだ。

 自分でもかなりアレな趣味だとは自覚している。だが、カップルで来店して『俺はよくわかんないから外で待ってるよ』なんて照れる彼氏を見せつけられた日にはもう、私の妄想エンジンはフル稼働、脳汁が止まらなくなってしまうのだ。


 そういえば、少し前に一度だけ、とんでもないグループが来店したことがあった。

 おそらく高校生であろう、涼しげで恐ろしく整った顔立ちの男の子と、ありえないくらい可愛い三人の女の子たち。

 普通、思春期の男の子なら女性の下着売り場なんて恥ずかしがって入れないものだが、その子は全く動じることなく、女の子たちが下着を選んでいる様子を堂々と眺めていた。

 しかも『ねえ、どっちがいい?』と聞かれると、真剣な顔で『こっちだな』なんて答えていたのだ。


(明らかにあの四人、普通の友達じゃないよね。どんな関係なのかな……!)


 あの日の夜は、私の妄想が限界突破した。帰宅後すぐにスケッチブックを広げ、彼らの関係性を考察する相関図や妄想ポエムを一晩中書き殴り、気づいたら外が明るくなっていたほどだ。


 あの子たち、また来ないかなー。

 そんなことを考えながら、入荷したばかりのショーツを棚に並べていた、その時だった。


「……っ!?」


 キターーーー!!

 入り口から入ってきたその姿を見て、私は心の中でガッツポーズをした。

 間違いない、あの時の美男美女四人組……いや、待って!?


(なんか、一人増えてる!! しかもめっちゃ美人!! 顔ちっさ!! 脚なっが!!)


 ただでさえ目立つ集団だったのに、そこに息を呑むほど美しい、黒髪のモデルのような女性が追加されている。

 ていうか、真ん中を歩く男の子。前回来た時より、なんかさらにいい男になってるんですけど……!? 前の涼しげな感じに加えて、なんかゾクッとするような野性味というか、オスっぽさが出てきてますよ!? たまんねぇ!!


 そして、相変わらずすっげぇスタイルの、薄褐色の肌の女の子。ぴっちりしたショートパンツから伸びる脚とお尻のラインが妖艶すぎ!グラビアモデルかよぉ!

 その後ろを歩く、同じ身長の二人。髪型と雰囲気は全然違うけど、顔の作りが同じだ。双子ちゃんだよなぁ。この子らもすっげぇ整ってるんだわ。元気そうな子にはオレンジかな! おとなしそうな子はブルーを合わせたい!!


 私は必死に平常心を保ちながら、店内の様子を窺った。


 すると、ショートパンツの女の子が、まっすぐに私の方へと歩み寄ってきた。


『すいません、店員さん。私に合うサイズ、あるかしら?』

「はいっ! もちろんでございます!」


 私は完璧な営業スマイルで即答した。

 ええ、ええ! 私が仕入れておきましたとも! 他のスタッフの子に「そのサイズのお客様なんて、うちの店舗に来ますかね?」って不思議がられたけど、あなたの印象が強烈に残りまくっていたから、数は少ないけどきわどくて最高にセクシーなやつを揃えておいたんですよ!


 私が棚の奥から、海外製の過激なレースのランジェリーをいくつか取り出して見せると、彼女は満足そうに微笑み、後ろを振り返った。


『凉、ちょっと来て。どれがいいかな?』


 呼ばれた男の子(凉くん、というらしい)が近づき、私が差し出したランジェリーを手に取って、彼女の胸元へとあてがう。


『んー……。どれも玲茄に似合うな』

『手触りとか、脱がせやすさとか、そういうのも大事よ?』


(脱がせやすさ!?!?)


 言って、言ってるぅぅぅああああ!! もー確定じゃあああん!! この子たち、絶対そういう関係だぁ!!


『これがいいかな』

『ふふっ、わかったわ。これ、いただきます』

「あ、ありがとうございますっ!」


 私からランジェリーを受け取る二人の後ろで、今度は双子ちゃんたちが『りょーくーん』と彼を呼んでいた。

 私は接客を装い、ささっと二人の近くへと移動して耳をすませた。


 彼が選んだのは、これまた双子ちゃんそれぞれの雰囲気に超似合う、完璧なチョイスだった。

 すると、おとなしそうな女の子が、ほんのりと頬を赤くして男の子に囁いたのだ。


『凉くんは……こういうリボン、指に絡めてほどくのが好きですから……こっちですよね』


(リボン、ほどくの、好き!?)


 やばい、この子たちレベル高すぎ。興奮しすぎて眩暈がしてきた。ちょっと落ち着こう、私。

 フラフラしていると、今度は元気な方の女の子が私に声をかけてきた。


『あ、店員さーん! これと似たデザインの、もう少し丈夫な生地ってあります?』

「ありますよありますよ! お任せください!」


 私が裏の倉庫から在庫を持ってこようと踵を返した、その瞬間。私の地獄耳は、確かに背後からの会話を捉えた。


『この前の薄いのだと、りょーくんが握ったとき破けそうになっちゃったもんねー』

『そうですね。私のは朝まで保ちませんでしたし』


(……だと……?)


 握って、破けそう。朝まで、保たない。

 ……すごいっす。私の負けです。完敗です。


 私が倉庫の壁に手をついて息を整え、品物を持って売り場に戻ると。

 今度は、一言も言葉を発さずに真剣に下着とにらめっこしていた、あの新しい美人の子が、男の子に声をかけていた。


『凉ちゃん。……どっちがいい?』

『え……あー、こっちかな』

『……こっちか。ふふっ、凉ちゃんは本当に、こういうのが好きなんだな』


(……あの美人も、デキてるだと……!?)


 私は戦慄した。

 この極上レベルな四人の女の子、全員あの男の子とそういう関係なんですか!? イケメンってすげぇ! いや、いくらイケメンでもそんなの普通いねぇわ!! ハーレムラノベの主人公かよ!!


 結局、四人の女の子は、彼に選ばせたランジェリーをそれぞれ購入し、仲睦まじく揃って店を出ていった。


 私はレジカウンターに突っ伏し、遠ざかる五人の背中を見送った。


(みんなで、あれを着けて……お泊り会とか、しちゃうのかな……)


 うわぁ、すっげぇ。

 私の脳内で、恐ろしいほど鮮明な妄想が爆発した。


 広くてふかふかのベッドの上。

 私が販売したばかりの、あの過激なランジェリーを身に纏った四人の美女たちが、あのイケメンを中央にして周りを取り囲んでいる。視線と吐息が交錯し、甘い声が重なり合う、退廃的で美しすぎる秘密の花園――。


「……はぁっ、尊い……っ」


 ダメだ。鼻血が出そうだ。

 仕事中だというのに、顔のニヤけが全く抑えきれない。


「四谷さーん! こちらのお客様の対応お願いしまーす!」


 おっと、いけないいけない。仕事に集中しないと。

 私は火照った顔を両手でパチパチと叩いて、再び売り場へと戻っていった。

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