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四人でいることが、日常だった ――名前のない楽園――  作者: いもたにし
第七章 最適化された依存、完成された生態系
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第七章・エピローグ

 ――side. 井神 凉――


 夜。全員が風呂に入り終え、ようやく家の中に静寂が戻ってきた頃。

 玲茄、茉依、悠希の三人は、寝支度を整えて先に俺の部屋へと向かっていた。俺もすぐに後を追うはずだったのだが……ふと足を止め、気付けば誰もいない薄暗いリビングのソファに、深く腰を下ろしてしまっていた。


 嵐のような数日間だった。

 母さんの冷徹な監査と、父さんの底知れない観察眼。俺たちはそれに怯えることなく、父さんの言うところの"生態系"――そのありのままを突きつけ、なんとか現状維持をもぎ取った。


 だが。

 ソファの背もたれに体を預け、天井を見上げて静かに息を吐き出すと、あの夜に父さんと交わした対話の一部が、棘のように脳裏に蘇ってきた。


『普通じゃないと自覚しているものを、人は隠そうとする。……お前たちも、今までそうやって守ってきたんじゃないか?』


 父さんのその指摘は、恐ろしいほど的を射ていた。

 俺たちは、自分たちが社会の倫理から外れた"異常"であることを自覚している。だからこそ、学校の教師を手懐け、周囲の目を欺き、強固な防波堤を築いてこの歪な箱庭を死に物狂いで守ってきたのだ。


 俺が腹を括って選び取ったこの道。

 玲茄、茉依、悠希、そして美琴が、すべてを懸けて俺に捧げてくれた狂信。

 それはもう決して揺らぐことのない絶対的なものだ。だが……同時に、ふとした薄ら寒さを覚える。


 これからもこの"異常(にちじょう)"を守り抜くために、俺たちはどこまでやるのだろうか。

 彼女たちは、俺のために、この箱庭を永遠にするために、一体どこまで手段を選ばなくなるのだろうか。

 倫理を捨て、他者を盤面の駒として利用することに慣れきった俺たちの行く先には、いつか、誰にも歯止めが効かないような一線を越えてしまう日が来るのではないか。


 そんな危機感が、冷たい雫のように胸の奥に落ちた。


「……普通、か」


 誰にも聞かれることのない独り言が、静かなリビングに溶けていく。

 普通ではないからこそ、この箱庭はこれほどまでに甘く、息苦しい。俺がその"普通"という言葉の呪縛と、深い思考の沼に沈みかけた、その時だった。


「凉」


 ふわりと、甘い香りが鼻腔をくすぐった。

 いつの間にか隣に立っていた玲茄が、俺の手にそっと自分の手を重ね、艶やかな笑みを浮かべて覗き込んでいた。


「さ、部屋へ行きましょ」


 彼女のその言葉には、一切の迷いも、後悔も、俺を一人で考え込ませるつもりもない、底知れない熱を孕んでいた。


「……ああ」


 俺は小さく息を吐き、その柔らかくも抗いがたい手に引かれるまま、ソファから立ち上がった。

 普通への未練など、とうの昔に捨て去ったはずだ。

 危機感も、社会との境界線も、今はすべて彼女たちの甘い体温の中に溶かしてしまえばいい。


 俺は、彼女たちが待つあの澱んだ楽園の奥底へと、再び自ら足を踏み入れていった。

第七章を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この後は幕間エピソードを挟んだのち、第八章を公開したいと考えているのですが……。

三月中旬頃からひどい花粉症に悩まされており、その影響で執筆に遅れが生じております。

蛇口のように流れ出る鼻水と、一度出るとなかなか止まらないくしゃみが本当に辛く……。

極力日を空けずに更新したいと思っておりますが、このような状況のため、どうかご理解いただけますと助かります。

本作を少しでも楽しんでいただけましたら、感想やブックマーク登録、評価などをいただけますと執筆の大きな励みになります。

引き続き、どうぞよろしくお願いいたします!

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