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四人でいることが、日常だった ――名前のない楽園――  作者: いもたにし
第七章 最適化された依存、完成された生態系
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歪みきった幸福の証明

 ――side. 井神 智里――


 凉が二階へ上がり、入れ替わりで三人の少女たちがリビングへ降りてきた。

 玲茄、茉依、悠希。

 彼女たちが椅子に並んで腰を下ろすのを、私は静かに観察していた。


 宮藤玲茄。彼女は相変わらずだ。優雅な微笑みを浮かべ、一切の隙を見せない。

 だが、私が気にかかるのは他の二人だった。


 中里茉依。彼女の愛らしい笑顔は以前と変わらないが、その奥にある凉への依存と狂信が、不気味なほど純度を増し、ひどく歪な形に固まっているのがわかる。

 そして、中里悠希。以前、私の視線に怯え、震えていた少女はもういない。今は静かに、しかし確かな意志――あるいは凉への底知れない執着――をその瞳に宿し、真っ直ぐにこちらを見据えている。


 私は小さく息を吐き、手元の三冊のノートから視線を上げた。


「さて。まずは、"二つの約束"についての確認よ」

「『四人の関係を崩さないこと』。そして、『この関係に恋人などの線を引かないこと』……ですね」


 玲茄が、涼やかな声で私の言葉を引き継いだ。


「ええ。現状はどうなっているのかしら」

「もちろん、守られていますよ」


 玲茄は微笑みを崩さず、はっきりと答えた。


「私たちは誰一人欠けることなく、そして誰一人、彼を独占しようとはしていません。全員が等しく彼を支え、彼に寄りかかっています。……そこに、美琴さんが加わった今でも」

「……そう」


 これほどまでに倫理から逸脱した関係を、悪びれもせず、むしろ誇らしげに肯定してみせる。その異常な結束力に、私は再び軽い眩暈を覚えた。


「では、進路について聞かせてちょうだい。現段階でのあなたたちの希望は?」


 私の問いに、今度は悠希がスッと背筋を伸ばして答えた。


「私たちは全員――凉くんと同じ国立大学へ進学するつもりです。ただ、学部は分かれています」

「全員で、同じ大学へ……」


 私はあえて表情を変えず、ただ事実だけを反芻した。


(やはり、そういうことね)

 凉が口にした『文学部で教員免許を取る』という言葉。そして、彼女たちが全員で同じ大学へ、かつ学部は異なるという事実。

 ――美琴が"指定校推薦"で既に合格が決まっている場所。


 だが、私はここでそれ以上追及することはしなかった。


「……わかったわ。学業を疎かにしないよう、現状維持に努めなさい」

「はい」

「ありがとうございます、智里さん」


 悠希と茉依が頷く。

 これで面談は終わりかと思った、その時だった。


「――ねえ、一つだけ聞いてもいいかな」


 これまで一言も発さず、ただ面白そうに紅茶を飲んでいた和哉が、ふとカップを置いて口を開いた。

 声のトーンは、相変わらず飄々として軽い。だが、彼が身を乗り出した瞬間、リビングの空気がピンと張り詰めた。


 和哉は、三人の少女たちの顔を順番に見つめ、極めてシンプルに、こう問うた。


「君たちは今、幸せかい?」


 親にすらこの異常を突きつけ、社会の倫理を裏切り、自分たちの将来を犠牲にするかもしれない、この歪な関係。

 その中心にいることを、本当に幸福だと思えているのか。

 その本質的な問いに対し――。


「「「はい」」」


 三人の声は、見事に重なった。

 一切の迷いも、間もなかった。まるで息をするように当たり前のこととして、彼女たちは即答したのだ。


 その顔には、ただ、凉という存在に自分たちのすべてを捧げているという、狂おしいほどの充実感だけが満ちていた。


「……そうなんだね」


 和哉は数秒間三人の目を見つめ返した後、ふわりと緊張を解き、いつものようにニコッと笑った。


「さて、私からの確認は以上よ」


 私は小さく息をつき、場を締めくくった。


「茉依さんと悠希さんは、二階から美琴を連れてきなさい。……玲茄さん、あなたはここに残って」


 私の指示に、茉依と悠希は立ち上がり、「失礼します」と一礼して二階へと向かっていった。


「それじゃあ、僕は少し外を散歩してくるよ」


 和哉が立ち上がり、軽く伸びをした。


「長旅で体がなまっちゃってね。ちょっと冷たい空気でも吸ってくる」

「ええ、いってらっしゃい」


 私は軽く頷き、玄関へと向かう夫の背中を見送った。


 リビングに残されたのは、私と玲茄の二人だけ。

 そして間もなく、あの恐ろしく聡明な折崎の娘がここに加わる。

 私は、この後に控える"女同士"の面談に向けて、静かに思考を研ぎ澄ませた。

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