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四人でいることが、日常だった ――名前のない楽園――  作者: いもたにし
第六章 檻を抜け出した獣、狂気を溶かす甘き許容
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ルールの死角と、素行不良な生徒会長

――side. 井神 凉――


「――おかえりなさい」


夕暮れに照らされた家の奥から響いた、艶を帯びた聞き慣れた女の声。

その直後、パチッと玄関の照明が点き、廊下の奥から一人の女性が姿を現した。


「……みこねぇ」


ゆったりとした部屋着姿で、マグカップを片手に微笑んでいるのは、間違いなく美琴だった。


「万が一のために玄関の靴を隠しておいたが、やはり杞憂だったようだ」

「……いるだろうな、とは思ってたけど、相変わらずの読みだね」


俺はキャリーケースを玄関に置いたまま、美琴を見つめた。


合鍵は渡してある。

あの日、美琴の部屋で俺が定めたルール。

本来ほとんど来ることがないその日は、意外と近くにあった。

修学旅行の前日と、終了の日。そのわずかな隙を、美琴が見逃すはずがない。


「ふふっ。君たちの非日常がテーマパークで終わるなら、私の非日常はここからスタートってこと」


俺が呆れたようにため息をつくと、美琴はふいに真剣な、それでいてどこか見透かすような瞳で俺の顔をじっと覗き込んできた。


「……どうかした?」

「ううん。なんだか凉ちゃん、出発する前よりも、ずっといい顔をしてるなって思って」

「……」

「修学旅行で、何かあったんだろう? ……もっと深く、腹を括ったような男の顔になってる」


図星だった。

俺が自分の内にある"獣"を受け入れたこと。その精神的な変化を、美琴は俺の顔を見ただけで、いとも簡単に見抜いてしまったのだ。


「……なんでも、お見通しなんだね」

「伊達に、凉ちゃんのことずっと見てないからね」


美琴は満足そうに微笑むと、マグカップを近くの棚の上に置き、俺の首元にスッと腕を回してきた。

美琴のしっとりとした柔らかさと、理性を溶かすような百合の香りが絡みついてくる。


「凉ちゃん。……今日は、泊まるよ」

「みこねぇ……」


耳元で囁かれたその宣言に、俺の背筋にゾクッとした甘い痺れが走った。


「合鍵を持って年下の男の家に泊まろうだなんて……素行不良な生徒会長様だね」


俺が呆れたように言うと、美琴は俺の胸板に頬を擦り寄せながら、クスクスと妖艶に笑う。

抵抗する気力なんて、とっくに残っていなかった。いや、最初から抵抗するつもりなんてなかったのかもしれない。


「いいだろう? 私、一度やってみたかったんだ。男の子の家からの、朝帰りってやつ」


美琴はゆっくりと顔を上げ、濡れた瞳で俺を見つめた。


「……凉ちゃんのベッドに、私の匂い、たっぷりしみついちゃうかもね?」


俺の唇が塞がれるまで、一秒もかからなかった。

非日常の終わりは、さらなる甘く危険な"日常"の始まり。


俺の高校生活二度目の秋は、こうして、誰にも言えない秘密と熱を孕んだまま、さらに深く歪み始めていくのだった。

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