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四人でいることが、日常だった ――名前のない楽園――  作者: いもたにし
第六章 檻を抜け出した獣、狂気を溶かす甘き許容
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夢の終わりと、暗闇で待つ侵入者

――side. 井神 凉――


二日目の夜。

消灯時間を過ぎた頃、俺たち六人は連れ立って女子の宿泊フロアへとやってきた。


「それじゃ、また明日な。おやすみ」

「うん、また明日ねー!」


隆一と白峰が、隣の部屋へと先に入っていくのを見届ける。

俺がドアノブに手をかけ、鍵を開けようとした、まさにその瞬間。


ガチャリ。

廊下の少し奥にある部屋のドアが細く開き、そこから見慣れた女子生徒が二人、顔を覗かせた。

同じクラスの、四谷と石井だった。


「見回りの先生、いないよね? 今のうちに隣の部屋に……」

「しーっ、声大きいよ石井……って、え?」


薄暗い廊下で、俺たち四人と、四谷・石井の視線がバッチリと交差した。


消灯時間はすでに過ぎ去っている。そして、男子である俺が、いつもの三人と一緒に、今まさに女子の部屋へ吸い込まれていこうとしている光景。


二人は限界まで目と口を見開き、完全に石化していた。

おそらく彼女たちの脳裏には、体育館でのあの"ジャージ越しのくびれ事件"がフラッシュバックしているに違いない。


(……またこいつらか)


俺がどうやってこの状況をごまかそうかと思考を巡らせかけた、その時。


「……ふふっ」


玲茄が楽しそうに小さく笑い、石化した二人の前へとツカツカと歩み寄った。


「い、井神くんたち、これって……!?」

顔を真っ赤にして震える声で何かを言いかけた石井と四谷の目の前で、玲茄は口元に人差し指を立てた。


「……お願い。内緒にしてね?」


「ひゃっ……!」

「わ、わかった! 何も見てない! 私たち何も見てないよ四谷!」

「う、うん! 戻ろっ、石井!」


凄まじい破壊力に当てられた二人は、パニックを起こしたように顔を見合わせ、逃げるように自分たちの部屋へと駆け戻っていった。

バタン! と勢いよくドアが閉まる音が廊下に響く。


「……お前なぁ。またあいつらをからかって」

俺が呆れたように言うと、玲茄は「だって面白かったんだもの」と悪びれずに肩をすくめ、俺の腕にすり寄ってきた。


「りょーくん、早く入ろっ? 廊下、また誰か来ちゃうかも」

「そうですよ、凉くん。今日は三人で、いっぱいマッサージしてあげますからね」


茉依と悠希も、甘えるように俺の服の裾を引っ張る。

俺は苦笑しながら、「ああ、そうだな」と頷き、四人で夜の部屋へと足を踏み入れたのだった。



――


修学旅行、三日目。

今日は一日、関西でも最大級のテーマパークでの自由行動だ。


「うわぁぁっ! りょーくん、あのジェットコースター乗ろ! 絶対乗ろ!」

「ちょっと茉依、引っ張らないで。……凉、あれは少し心の準備が……」

「玲茄、もしかして絶叫系苦手なんですか? ふふっ、意外ですね」

「なっ……悠希、後で覚えてなさいよ」


ゲートをくぐった瞬間から、俺たちは完全に童心に返っていた。

お揃いのキャラクターの被り物を買い、チュロスやポップコーンを片手に、アトラクションからアトラクションへと駆け回る。


他校の生徒とのトラブルも、教師の目も、周囲のやっかみも、今日は一切関係ない。

そこにあったのは、ただ全力で非日常の空間を楽しむ、ごく普通の高校生たちの姿だけだった。


「井神くん! 隆一とあっちの乗り物行ってくるから、一時間後にあの時計台の下で集合ね!」

「おう、分かった。楽しんでこい」


途中で、白峰と隆一が気を利かせたのか、あるいは純粋に二人きりで楽しみたかったのか、別行動をとる時間もあった。

その間、俺は両腕に茉依と悠希を抱え、背中には玲茄が張り付くという、傍から見ればとんでもない状態でパーク内を練り歩いた。


周囲からの視線は相変わらず痛いほど刺さってきたが、今の俺にとっては、そよ風のようなものだ。

俺が胸を張り、堂々と彼女たちをエスコートすることで、三人もまた、幸せそうな笑顔を俺に向けてくれる。


それが嬉しくて、誇らしくて。

気付けば、あっという間に日が暮れて、色鮮やかなパレードの光がパーク全体を包み込んでいた。


はしゃぎ回った三日目の夜は全員疲れ果て、ホテルに戻るなり早々に寝てしまった。


――


楽しかった非日常の時間は終わり、新幹線に乗って俺たちは地元へと帰り着いた。

駅前で解散し、方向の違う隆一と白峰と別れる。夕闇が迫る住宅街の道を、キャリーケースの車輪の音がガラガラと響く。


俺の家の前に、四人が揃って立ち止まった。


「はぁ~、着いたぁ。めっちゃ楽しかったけど、さすがに疲れたね」

茉依が大きく伸びをしながら言うと、全員が深く頷いた。


「今日はこのまま解散しよう。みんな、しっかり休んでな」

俺がそう提案すると、誰も反対はしなかった。


「そうだね。それじゃあ、また明日!」

「お疲れ様でした。おやすみなさい」

「凉、また明日ね」


玲茄、悠希、茉依。

それぞれの家へ向かう三人の背中を、俺は家の門の前から静かに見送った。


遠ざかっていく影が見えなくなるまで見届けた後、俺は大きく深呼吸をして、自分の家の玄関へと向かった。

ポケットから鍵を取り出し、ドアを開ける。


玄関の電気は消えており、靴箱の前には、俺の靴以外は何もない。

誰もいない、静かな家。

だが、俺は習慣のように、無人の空間に向かって声をかけた。


「――ただいま」


すると。

誰もいないはずの家の奥から。


「――おかえりなさい」


艶を帯びた、聞き慣れた女の声が返ってきた。

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