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四人でいることが、日常だった ――名前のない楽園――  作者: いもたにし
第六章 檻を抜け出した獣、狂気を溶かす甘き許容
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無邪気な観測者と、見過ごされた鎖

――side. 綿部 隆一――


新幹線が滑るようにホームを離れ、車内は修学旅行特有の浮かれた喧騒に包まれていた。


俺たちは三人掛けの座席を向かい合わせにして、六人で一つのボックス席を作っている。

通路側に座る俺の向かいの真ん中には凉がいて、その両隣には茉依と悠希が座っている。俺の隣には優花と、宮藤。

待ちに待った修学旅行で、またこの六人で行動できるのが、俺は素直に嬉しかった。


「着くの、お昼前くらいだっけ?」

「ああ。京都駅で降りて、そこからバスに乗って奈良に向かう」


俺の問いに、凉が手元のしおりを見ながら的確に答える。

班長である凉の仕切りは完璧だった。面倒な移動ルートも、スケジュールの組み立ても、最終的にこいつがまとめてくれたおかげで、俺たちは何の心配もなく旅行を楽しめている。

時間が経つにつれ、凉はどんどん頼もしくなっていく。それと比例するように、あの四人の結束も、以前よりずっと強固になっている気がした。


ただ……。

俺はふと、凉の隣で楽しそうに笑う茉依の横顔を見た。


文化祭以降、茉依の様子がほんの少しだけ引っかかっている。

明るさは前のままだ。俺たちと話す時も、以前と変わらない屈託のない笑顔を見せている。

だけど、なんだか……駄目だ、うまく言葉にできない。

あいつの中から「俺たちに気を遣う」みたいな人間臭いブレが消え去って、どこまでも"透き通ってしまった"ような、そんな妙な感覚。


「あははっ、隆一、また変な顔してるー!」

「なんだと!? お前なぁ、俺はこれでもクラスの女子からは……」


茉依が俺を指差してケラケラと笑う。

その隣で、凉が「はいはい」と優しく茉依を宥めていた。


……まあ、いっか。

こんなに笑顔で楽しそうにしてるんだ。俺の考えすぎだろう。

それよりも、俺の頭の中はもっと別の、重大なイベントで持ちきりだった。


(まさか、夜も優花と一緒にいられるなんてな……!)


宿泊先のホテルの話を聞いた時は、マジでぶったまげた。

本来なら俺と凉の二人部屋、優花たち女子の二人部屋が二つで、夜は完全にフロアが分断されるはずだった。

だが凉たちは、どういう裏技を使ったのか「教師の目を盗んで六人で一部屋に集まれるルート」を確保していると言うのだ。


なんでそんなことができるのか、詳しくは聞いていない。

でも、こんな規則の厳しい非日常の中で、好きなヤツと内緒の思い出が作れるなんて、最高じゃないか。


俺は隣に座る優花の横顔を盗み見て、一人でニヤける口元を必死に引き締めた。



――side. 白峰 優花――


「優花、お菓子食べる?」

「あ、うん! ありがとう、玲茄」


隣に座る玲茄からグミを受け取りながら、ボクは窓の外を流れる景色に目を向けた。


待ちに待った修学旅行。

この六人一緒に思い出が作れることが、本当に嬉しい。

特に、井神くんの存在は大きい。みんなをまとめる所作、意見が衝突しそうになっても柔軟に対応し、スムーズに処理するその手腕。

なんだか、あの生徒会長と似たような空気を感じる……というか、そういえば二人は、いとこ同士だったっけ。


生徒会長といえば。

今朝、駅前の集合場所で点呼に向かう時、少し離れた柱の陰から井神くんに手を振っている女の人がいた。

髪を下ろして私服を着ていたけれど、あれはたぶん、生徒会長だったと思う。わざわざお見送りに来ていたのだろうか。


ボクは正面に座る井神くんをちらりと見てから、そのまま視線を彼の隣――茉依へと移した。


最近の茉依は、何かが変わった。

きっかけは、たぶん文化祭の前後だ。表面上は明るくなっているようだけど、何か、もっと深いところが根本的に作り変えられたような気がする。

うまく言えないけれど、彼女の重心が、すべて井神くんという一点にだけ置かれているような……。


井神くんの雰囲気が、生徒会長のように隙のないものに変わったことと、何か関係があるのかな。うーん。


(……っと、いけないいけない)


ボクは小さく頭を振って、思考を打ち切った。

今はこんな、探りを入れるようなことを考える時間じゃない。せっかくの旅行なんだから、全力で楽しまなきゃ。


夜はホテルで、内緒で六人で集まれる予定になっている。

学級委員長としては、規則違反に思いっきり加担することになるから複雑なところだけど……でも、やっぱりすごく楽しみだ。


「まずは奈良かー。楽しみだね、茉依!」

「うんっ! 私、鹿におせんべいあげるの、ずっとやってみたかったの!」


茉依が両手を組んで、目を輝かせる。

その隣で、井神くんが保護者のように優しく微笑んでいた。


そうだ。彼女がこんなに幸せそうに笑っているんだから、何も心配することなんてない。


新幹線は、一路西へと向かって走り続ける。

ボクたちの非日常は、まだ始まったばかりだ。

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