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四人でいることが、日常だった ――名前のない楽園――  作者: いもたにし
幕間 非日常への助走――蠢く鎖と共犯者たち
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幕間:暴走する独占欲と、ジャージ越しの熱情

六章公開まで、幕間ストーリーを数話挟みます。

――side. 井神 凉――


体育館の中は、バスケットボールの弾む音と、シャトルを打つ甲高い音、そして生徒たちの歓声で満ちていた。


今日の体育は、隣のクラスとの合同授業だ。

体育館を半分に区切り、男子はバスケットボール、女子はバドミントンを行っている。

今はちょうど俺たちのチームの試合が終わった待機時間で、俺は隆一と、よく話すクラスメイト三人の男子――計五人で、壁際に座り込んでだべっていた。


「……なぁ、聞いてみろよ。隣のクラスの連中、またうちのクラスの女子の話してるぜ」


クラスメイトの一人が、ニヤニヤと笑いながら顎で隣のクラスの男子グループを指した。

耳を澄ますと、バスケの歓声の合間から、彼らの下世話で熱を帯びた会話が漏れ聞こえてくる。


『改めて思うけど、A組の女子ってやたらレベルたけぇよな』

『わかる。うちのクラスも可愛い子いるけど、A組ほどじゃねぇし』

『双子ちゃん可愛すぎだろ。顔とか体型同じなのに、属性がちょっと違うのがたまんねぇよな』

『石井と四谷もいいよなぁ。あと白峰も。ちっさいけどあのボーイッシュな性格と見た目が最高に刺さる』

『でもさ、やっぱ宮藤だよな。あれはもう反則だって』

『だな。今だってただのジャージ姿なのに、なんかエロいもん。しかもめっちゃ運動神経良いし、胸揺れてるし……』


いかにも男子高校生らしい、身も蓋もない品評会だった。


「今日も羨望の言葉が聞こえるぜぇ」

クラスメイトが、おちゃらけた口調で肩をすくめる。

「うむ。優花はかわいいからな、当然だ」

隆一は腕を組み、なぜかドヤ顔で深く頷いていた。こいつは本当にブレない。


「にしてもさ」

別のクラスメイトが、感心したような、少しだけ探るような目で俺を見た。

「井神も、あの宮藤や中里姉妹の三人とずっと一緒にいるって、冷静に考えるとすげぇよな。隣のクラスのやつらみたいに、やっかみとか嫉妬とか、まだあんのか?」


「まあ、今はそうでもないけど。一年の時はすごかったな」

俺が苦笑交じりに答えると、隆一も「そうだな、あの頃の視線は痛いくらいだった」と頷いた。


そこから、男子五人の会話は自然と、他愛のない女子の話や、少しスケベな内容を含んだ、男の井戸端会議へと移っていった。

クラスメイトたちは自分たちの恋愛事情や、「あの子のここがいい」といった妄想を赤裸々に語り合う。だが、俺は隆一以外には俺たち四人の"本当の踏み込んだ関係"を話すわけにはいかないため、適当に相槌を打って流すだけに留めていた。

彼らもその辺りの線引きはわきまえているらしく、俺に過度な追及をしてくることはなかった。


ふと、俺は壁際に座ったまま、視線を体育館の反対側――バドミントンをしている女子たちのコートへと向けた。


そこには、クラスメイトの女子たちと笑顔で話したり、試合をしている子を応援したりしている玲茄、茉依、悠希の三人の姿があった。


(……確かに、目立つな)


他クラスの男子が熱を上げるのも無理はない。

指定のジャージ姿だというのに、彼女たちの容貌と整ったプロポーションは、周囲の女子たちの中から明確に浮き出ている。

玲茄の肉付きは良いのにすらりとした長い手足と、ジャージのジッパーの隙間から主張する豊かな胸の膨らみ。茉依の健康的な曲線と、動くたびに弾むような瑞々しさ。悠希の華奢なようで、出るところは出ているアンバランスな妖艶さ。


ふと、普段の学校での彼女たちの制服姿が脳裏をよぎる。

三人とも着こなし方はそれぞれ違うが、一つだけ共通していることがある。それは、スカートの丈を規定ギリギリアウトなところまで短くしていることだ。


階段を上る時や、椅子に座る時、そこから覗く滑らかな素肌は、いつも周囲の男子たちの視線を釘付けにしている。

……あいつらが、なぜあんな格好をしているのか。

俺の視線を惹きつけ、俺を喜ばせるためだけに、わざとやっているのだ。


(あいつらは、俺のものだ)


唐突に。

本当に唐突に、腹の底からドス黒い"独占欲"と"優越感"が湧き上がってきた。


他人がどれだけ遠くから涎を垂らして眺めようが、彼女たちの服の内に隠された本性を知っているのは俺だけだ。


あのバランスの良い肢体。

玲茄の、薄褐色の肌に描かれた、恐ろしいほどに魅力的で細いくびれ。

俺は、あそこを両手でガッシリと掴むのが好きだ。


二人きりになった夜。

普段は誰よりも大人びて余裕のある彼女が、俺にだけ見せる無防備な姿。

あの細いくびれを強く引き寄せ、逃がさないように腕の中に閉じ込めると、彼女は熱を帯びた瞳で俺を見つめ返し、甘くかすれた吐息を漏らすのだ。


いくら他の男たちがあの三人を羨望の目で見ようと。

あの柔らかな肌の本当の熱を知り、彼女たちの全てを独占し、支配することができるのは、俺だけ。

一生、俺だけなんだ。


そんな昏い優越感と思考の深みにズブズブと沈み込んでいると。


「あ、男子はここでおさぼり中?」


不意に、上から声が降ってきた。

見上げると、水分補給のために一度体育館の外へ出ていた玲茄が、クラスメイトの石井と四谷を連れて、俺たち五人の前にやってきたところだった。


「おっ、お疲れ。バドミントンどうだった?」

「宮藤さん、めっちゃスマッシュえぐかったね!」


クラスメイトの男子三人が、少しテンションを上げて玲茄たちに話を振る。石井と四谷も楽しそうにそれに答え、ちょっとした男女の雑談の空気が生まれた。


玲茄は俺の前に立ち、少し汗ばんだ首筋をジャージの襟元を引っ張ってパタパタと仰いでいる。

彼女の細い腰が、ジャージの布地越しにうっすらと見えた。


(……あそこ)


俺の脳内で、先ほどの夜の記憶のフラッシュバックが、完全に理性を上書きした。

今、自分が学校の体育館にいて、周りにクラスメイトがいるという認識が、ぽっかりと抜け落ちていた。


俺は、座ったまま無言で手を伸ばした。

そして、おもむろに玲茄のジャージの裾から手を入れ、その下にある薄手のTシャツすらも捲り上げ。


生肌の、あの細いくびれを、両手でガッシリと掴んだ。


「――っ、あっ……」


突然のことに、玲茄の口から、微かに甘く上ずった声が漏れた。

俺の手のひらに、彼女の汗ばんだ肌の熱と、ビクッと跳ねた腹筋の感触が直接伝わってくる。


「…………え?」

「……は?」


その瞬間。

俺たちの周囲の時間が、完全に凍りついた。


雑談に花を咲かせていたクラスメイトの男子三人、そして石井と四谷が、目と口を限界まで見開き、俺の両手が玲茄の服の中に突っ込まれている光景を、息を止めて凝視していた。


(――あ、やべ)


その尋常ではない沈黙に、俺は数秒遅れてハッと正気に戻った。

やってしまった。いくらなんでも、場所と状況をわきまえなさすぎる。


俺は、焦りを絶対に周囲に悟られないよう、極めて冷静な、まるでそれが日常のルーティンであるかのような自然な動作で、玲茄のくびれから手を引き抜いた。


「……あまりに気になって、つい掴んでしまった。すまん」


誰に対する言い訳なのかも分からない、謎の謝罪を口にする。


「い、井神くん……!?」

「玲茄たちって、やっぱり……そ、そういう関係だったの!?」


石井と四谷が、顔をゆでダコのように真っ赤にして、指を震わせながら俺たちを指差した。

その声で我に返った男子三人も、慌てて俺を取り囲む。


「お、おい井神! お前、いくらなんでもそれはダメだろ!」

「そうだぞ! みんなの前で、あんな生々しい触り方はしてはいけない!」

「せめて見えないところでやれ!」


なぜか謎の道徳観で諭してくる男子たち。

俺がどうやってこの場を誤魔化そうかと冷や汗を流していると、隣で隆一が周囲をぐるりと見渡し、ふぅ、と呆れたように息を吐いた。


「俺もさすがに今の奇行はフォローできんぞ、凉。……だが、よかったな。みんな試合に夢中で、この場にいる奴ら以外には見られていなかったようだぜ」


隆一の冷静な状況分析に、俺は心底安堵した。


すると、突然服の中に手を入れられた張本人である玲茄は、怒るどころか、頬をほんのりと染め、妖艶で悪戯っぽい微笑みを浮かべた。


「……ふふっ。みんなには、内緒だよ?」


玲茄は真っ赤になっている石井や四谷、クラスメイトたちに向かって人差し指を立ててウインクをした後。

俺の顔を覗き込み、コツン、と。


「……凉は、メッ、でしょ」


楽しそうに、俺の額に軽いデコピンを入れた。


「あ、ああ……悪い」


大人の余裕でその場を"ちょっとしたじゃれ合い"のような空気に書き換えてみせた玲茄は、「それじゃ、戻ろっか」と石井と四谷の背中を押し、女子のコートの方へと歩いていった。

石井たちは何度も何度も振り返りながら、興奮した様子で女子の群れへと戻っていく。


取り残された、俺たち男子五人。

俺と隆一以外の三人は、遠ざかる玲茄の後ろ姿と、俺の顔を交互に見た後。


「……俺も、彼女作ろ……」

「いや、でも井神の真似は無理だろ……」


完全に当てられたような、ひどく遠い目をして、虚空に向かって呟いたのだった。

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