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四人でいることが、日常だった ――名前のない楽園――  作者: いもたにし
第五章 名前を奪う光、歪に癒着する箱庭
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第五章 エピローグ

――side. 井神 凉――


放課後の教室。

六つの机をくっつけて、俺たちは修学旅行のしおりと数冊のガイドブックを広げていた。


「二日目の班別自由行動だけどさ、やっぱ定番のデカい寺院巡りからスタートで良くないか?」


隆一がガイドブックを指差しながら言うと、向かいの席で白峰が身を乗り出した。


「えー、お寺ばかりじゃ疲れるよ。可愛い和カフェとか、お土産屋さん通りも歩きたいね!」

「お前なぁ、せっかく京都まで行くのに……」


十一月下旬。

文化祭の熱狂もすっかり冷め、話題は来週に迫った修学旅行一色になっていた。


事前に提出した班別行動計画表は、当たり障りのない経路をそれっぽい時間軸で作り上げ、仮初めの形で報告されている。今は、それぞれが実際に行きたい場所の候補を出し合っている真っ最中だ。


「茉依はどうだい? 行きたいところはある?」


白峰に話を振られ、茉依は迷う素振りさえ見せず、ただ俺の瞳だけをじっと見つめ返した。


「りょーくんが決めて。りょーくんが行きたいところに、私、ついていくから」


屈託のない笑顔。

そこには、かつてのように「自分が場を盛り上げなきゃ」と空回りするような強迫観念は一切ない。

ただ純粋に、俺がすべてを決定し、それに従うことへの安心感だけが張り付いている。


「出たよ、最近の茉依の『凉におまかせ』モード」

「ほんとほんと。井神くん、すっかり保護者だね」


隆一と白峰が、少しの戸惑いを見せながら、茶化すように笑い合う。


「……悠希は?」


俺が隣に視線を向けると、悠希は手元のしおりから目を上げず、ぽつりと呟いた。


「凉くんがいいと思うところなら、どこでも」

「ふふっ。班長の凉に、決定権は全投げみたいね」


玲茄が頬杖をつき、面白がるように目を細めた。

その涼やかな視線だけが、俺たちの首に繋がった"見えない鎖"の存在を正確に捉えている。


「……わかった。じゃあ、午前中は隆一の言う通り有名な寺院を回って、午後は白峰の希望通り、カフェや土産物屋の多い通りを歩くルートで組む」

「決まったね! 楽しみだね、りょーくん!」


茉依が俺の腕にぎゅっとしがみつき、嬉しそうに笑う。

俺は、その頭を自然な動作で、ゆっくりと撫でた。


「おっ、さすが班長。話が早い」

「やったね! じゃあ早速タイムスケジュールを組もうか」


隆一と白峰がしおりにペンを走らせるのを、俺は静かに見つめる。


京都。歴史ある街での、特別な非日常。

だが、行く先がどこであろうと関係ない。

俺たち四人が揃っていれば、そこが俺たちの"日常"になる。


――今はただ、俺が守り抜いたこの穏やかな時間を、新しい舞台で楽しめばいい。

第五章を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


少しでも楽しんでいただけましたら、感想やブックマーク登録、評価などをいただけますと、執筆の大きな励みになります。

引き続き、どうぞよろしくお願いいたします!

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