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四人でいることが、日常だった ――名前のない楽園――  作者: いもたにし
第三章 有限の楽園 ――あるいは、明日の足音
31/72

女王の論理、あるいは聖域の滴

――side. 宮藤 玲茄――


深夜。

静まり返った寝室には、微かな熱気と、情事の名残を感じさせる甘く重たい匂いが立ち込めている。


カーテンの隙間から差し込む月光が、乱れたシーツの上に横たわる二人の肌を白く照らしていた。


茉依は、夢うつつのまま恍惚とした表情を浮かべ、満足げに深い吐息を漏らしている。その隣で、悠希は胎児のように身を丸め、どこか安堵したような寝顔で眠りについていた。


私はゆっくりと手を伸ばし、彼女たちの滑らかな腹部に掌を置いた。


温かい。

この薄い膜のすぐ下で、今、凉の熱が彼女たちの内側を浸している。


『……離れていても、自分の中に凉を感じられる。それがあれば、彼女たちは驚くほど安定します』


智里さんに言い放った自分の言葉を思い出す。

あれは、彼女を追い詰めるための詭弁ではない。私の、一点の曇りもない本心だ。


指先で、二人の腹を優しく撫でる。

この中に凉の痕跡がある。たったそれだけの事実が、不安定だった彼女たちの精神を(なぎ)に変え、この歪な箱庭を聖域へと昇華させる。

私が導き出した、最も効率的で、最も幸福な最適解。

……この静けさが、その証明。


智里さんは、私のことを怪物を見るような目で見ていた。

それでいい。

彼女に認められる必要なんてない。ただ、私たちの"システム"を邪魔させないための、沈黙と協力さえ手に入ればそれで十分だった。


雑費の名目は"サプリメント"。

あの賢明な母親は、結局、私の用意した盤面の上で踊ることを選んだ。

……少なくとも、今のところは。


「……ん」


隣で、荒かった息をようやく整えた凉が、微かに身じろぎした。

二人の相手を終え、精根尽き果てた様子の彼は、ひどく無防備で、愛おしい。


彼は、自分が私に"教育"されていることなんて、微塵も疑っていないだろう。

ただ、愛する彼女たちのために、そしてこの場所を守るために、誠実に、懸命に、その身を削って愛を注いでいる。


その自己犠牲的な献身こそが、彼をより美しく、より残酷な"統治者"に仕立て上げていく。

私が彼を、そう望んだから。


私は静かに身を起こし、背後から凉の首筋に腕を回した。

汗ばんだ彼の背中から、生々しい生命の鼓動が伝わってくる。


「……凉」


耳元で、囁くようにその名を呼ぶ。

凉が、少しだけ驚いたように肩を揺らし、眠気に潤んだ瞳で私を振り返った。


「……玲茄……。あ、ごめん、二人とも寝ちゃった?」


「いいのよ。あの子たちは、もう満たされたから」


私は凉の頬に手を添え、優しく、けれど逃げ場のない力で自分の方へと向けさせた。


私の瞳の中には、彼しか映っていない。

茉依や悠希を管理し、智里さんを制圧したのは、すべて彼という太陽を、私の手の届く範囲で輝かせ続けるため。


管理者は、誰よりも報酬を受け取る権利があるはずだ。


「お疲れ様、凉。……次は、私の番ね」


「あ……」


凉の瞳に、困惑と、それ以上に抗えない熱が宿る。


私は彼の首筋に唇を寄せ、吸い付くように深く、深く、その跡を刻みつけた。

喉の奥から、甘い震えがせり上がってくる。


「私にも、ちょうだいね」


その言葉と共に、私と彼はシーツへと吸い込まれていく。


閉ざされた箱庭。

今夜も、私たちの純粋で歪な時間が、音もなく降り積もっていく。


――次は、どこを固定していこうか。

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