第三章 第4話|調査終了
通達は、発掘地でも書庫でもなく、王国の中心に近い建物で下された。
調査団が呼び出されたのは、学術院でも軍務省でもない。それらの上に位置する、小さな会議室だった。
部屋は質素で、飾り気がない。
窓は高く、外の景色はほとんど見えなかった。
待っていたのは三人だった。
いずれも高位にあることは、服装や態度から分かる。だが、名乗りはなかった。
「ご苦労だった」
中央に座る人物が、穏やかな声でそう言った。
感情の起伏は感じられない。
調査団の長が一礼する。
「報告は受けている。発掘地についても、記録の状況についてもだ。いずれも、おおむね想定どおりだった」
その言葉に、調査団の中で小さなざわめきが起きた。
想定どおり――つまり、彼らは最初から、こうなることをある程度知っていたのだ。
「そこでだ」
中央の人物は続ける。
「この調査は、ここで終了とする」
言葉は短く、はっきりしていた。
誰かが息を吸う音がした。
「理由を、お聞きしてもよろしいでしょうか」
調査団の長は、慎重に問いを選んだ。
「未解明な点が多く、追加調査の価値が――」
「価値はある」
言葉を遮ったのは、隣に座る人物だった。
「だが、必要はない」
その断定には、苛立ちも威圧もなかった。
ただ、揺るぎのなさだけがあった。
「これは危険だから止める、という話ではない」
中央の人物が視線を上げる。
「危険かどうかは、重要ではない」
調査団の長は、言葉の意味を測るように一瞬沈黙した。
「では……」
「十分だからだ」
それだけだった。
説明は、それ以上なされない。
「都が存在したことは確認された。滅びたことも確かだ。そして、それ以上が残っていないことも分かった」
「ならば、調査の目的は果たされている」
若い調査員が、思わず口を開いた。
「理由を知る必要はないのですか」
空気が、わずかに張り詰める。
だが、咎める声はなかった。
「理由を知ったところで、今の王国に何か使い道があるか?」
中央の人物は問い返す。
誰も答えなかった。
「説明がついたとして、それで何かが変わるわけではない。それどころか――」
言葉が、少しだけ区切られる。
「変えなくていいものまで、動かす可能性がある」
調査団の長は、その言葉を胸の中で反芻した。
「これは、知らなかったから起きた事態ではない」
「知らなかったことにしておいたから、保たれてきたものだ」
それが、明確な方針だった。
だが、何を指しているのかは、やはり語られない。
「報告書は、これまでの内容で十分だ。余計な推測は書かない。未解明で構わない」
「それが、最も正確だからだ」
会議は、それで終わった。
署名も、印章もない。
ただ、「終了」という言葉だけが残った。
部屋を出たあと、誰かが小さく息を吐いた。
「……納得してしまいましたね」
誰も否定しなかった。
発掘を続けたい気持ちが、消えたわけではない。
だが、これ以上踏み込むことが正しいとも思えなかった。
「知らないままのほうが、いいこともある」
誰かがそう言った。
学者としては、敗北に近い言葉だった。
それでも、誰も笑わなかった。
調査団は解散した。
発掘地は、再び平地に戻されるだろう。
書庫の記録も、新しい書き込みは加えられない。
都は、空白のままだ。
だが、それでいいのだと、全員が感じていた。
理由を知らなくても、避けるという選択は、すでに正しく機能している。
その事実だけが、静かに確かめられた。




