第三章 第2話|欠けているもの
発掘は、規則正しく進められた。
範囲を区切り、
深さを揃え、
一つずつ確認していく。
調査団にとって、
それは慣れた作業だ。
過去にも、
滅びた町や、
捨てられた集落をいくつも掘ってきた。
だからこそ、
分かる。
「……おかしいな」
若い調査員が、
掘り進めた溝の底を見下ろしながら呟いた。
石が出ない。
基礎に使われていたはずの石材が、
どこにも見当たらない。
木材が朽ちた跡もない。
焼けた層も、
崩れた積み重なりもない。
「ここまで掘って、
何も出ないのは初めてだ」
別の調査員が、
記録板を確認しながら言う。
都ほどの規模であれば、
生活の痕跡が幾重にも残る。
壊れていてもいい。
欠けていてもいい。
だが、
何かは必ず出る。
土の層は、
途中で途切れているように見えた。
ある深さまでは、
人の営みを示す痕跡がある。
灰の混じった土。
細かな欠片。
削れた陶片の端。
だが、
そこから下が、ない。
「削り取られた……?」
そう言いかけて、
調査員は首を振った。
削った痕跡がない。
均した形跡もない。
ただ、
続いていない。
「比べてみよう」
調査団の長が言い、
過去の資料を広げた。
別の滅びた都の断面図。
戦争で焼かれた町。
洪水に沈んだ集落。
どれも、
壊れ方は違っても、
積み重なりは残っている。
時間が、
そこにあったことを示している。
「……一致しませんね」
誰かが、静かに言う。
この場所だけ、
時間が途中で切れている。
「奪われた、という感じでもない」
「持ち去るには、
量が多すぎる」
「そもそも、
持ち去る意味がない」
議論は、
次第に言葉を失っていった。
考えれば考えるほど、
当てはまる説明がなくなる。
「記録では、
急な滅びだったはずだ」
調査団の一人が、
文献を指差す。
疫病。
内乱。
外敵の侵攻。
いずれの説も、
紙の上では成り立つ。
だが、
この地面とは、噛み合わない。
「急すぎる」
誰かが、ぽつりと言った。
滅びたのではない。
続かなかった。
そんな印象が、
皆の中に残る。
風が吹き、
掘り返した土の表面が揺れる。
そこには、
人の痕跡がある。
だが、
それが「終わる過程」がない。
「……この先は」
調査団の長が、
言葉を選ぶ。
「慎重に進めましょう」
誰も反論しなかった。
ここには、
掘れば分かるものがない。
掘れば掘るほど、
分からないことが増える。
それを、
全員が感じ取っていた。
調査員たちは、
道具を置き、
溝を埋め戻していく。
何も見つからなかったからではない。
見つからなさそのものが、
十分すぎる成果だったからだ。




