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名を持たぬ魔女  作者: ささこ
暦500編

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第二章 Side魔女|樹海の奥にて



樹海の奥は、変わらない。


葉の重なりは厚く、

風は深いところまで届かない。


魔女は、根の張り出した岩のそばに立っていた。

遠くを見ているわけではない。

だが、遠くの気配は分かる。


「道が増えています」


魔族の一人が、静かに報告する。

距離は保たれている。

声も、低い。


「線が引かれ、

 数が書かれ、

 行き先が定まりました」


魔女は、何も言わない。


「こちらへ向かう線は、

 引かれていません」


別の魔族が続ける。


「避ける形で、

 世界が整っています」


魔女は、わずかに首を傾けた。


「……そうか」


それだけだった。


喜びも、失望もない。

確認に近い。


「選ばれなかったのですね」


問いではなく、事実の整理だった。


魔女は、樹海の内へ視線を戻す。


「選ばれなかった、というより――」


少し間を置き、言い直す。


「選ばなくても、足りたのだ」


魔族たちは、黙って聞いている。


「人は、線を引く」

「線の外を、余白と呼ぶ」


「余白が残るのは、

 恐れているからではない」


魔女の声は、低く、穏やかだ。


「一度、線を誤ったことがある」

「それを、覚えているのだろう」


何を指すのかは、語られない。


魔族の一人が、慎重に口を開く。


「近づかせぬよう、

 こちらから働きかける必要は?」


魔女は、首を振った。


「ない」


「もう、届いている」


「止める言葉も、

 境界も、

 今は要らない」


樹海の外で、

人は道を選び、

地図を描き、

値を付けている。


それで世界が回るのなら、

それも一つの形だ。


魔女は、足元の土に触れた。


湿り気も、温度も、

いつもと同じ。


「ここは、余白のままでいい」


誰に向けた言葉でもない。


「呼ばれぬなら、

 名も要らぬ」


魔族たちは、深く頭を下げる。


報告は終わった。

問いも、もうない。


樹海の奥は、

今日も静かだ。


線が引かれず、

値も付かず、

それでも消えない場所として。


境界は、

今も、そこに在った。

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