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名を持たぬ魔女  作者: ささこ
暦500編

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第二章 第2話|値段の違い

宿場町は、夕方になると忙しくなる。


街道を行き交う者たちが集まり、

荷を下ろし、馬を休ませ、

今日の取引を終える場所だ。


商人もまた、

いつもの宿に荷車を止めていた。


帳場の前で、

宿の主人と短い言葉を交わす。


「いつもの部屋だな」


「ああ。今夜は少し混んでる」


部屋代を払い、

干し肉とスープを頼む。


値段は、分かっている。

ここ数年、ほとんど変わっていない。


「……高くなったな」


ぽつりと、商人が言う。


宿の主人は、肩をすくめた。


「街道が延びたからな。

 荷も人も、遠回りだ」


遠回り。

それは、誰もが承知していることだった。


王都から南へ向かう商いは、

昔よりも距離がかかる。


だが、

その分を引いても、

道は賑わっている。


商人は、腰を下ろしながら考えた。


もし、

あの近道が使えたなら。


宿は一つ減り、

通行料も抑えられ、

値も下げられる。


そうすれば、

商いはもっと楽になる。


だが、

そういう話をする者はいない。


「安くならねえな」


商人の言葉に、

隣の席の護衛が笑った。


「安くする道がねえからな」


それ以上の説明は、なかった。


護衛もまた、

長く街道を歩いてきた人間だ。


剣の扱いには詳しいが、

樹海については、商人と同じ程度しか知らない。


「昔はどうだったんだ?」


商人が、何気なく聞く。


護衛は、少し考えたあとで首を振った。


「知らん。

 俺が歩き始めた頃から、

 この道しかなかった」


それが答えだった。


昔がどうであれ、

今はそうなっている。


「値段が高い」と言いながら、

誰も別の道を選ばない。


高いのは、

遠回りだからではない。


遠回りが、

当たり前になっているからだ。


料理が運ばれてくる。

湯気の立つ器を前に、

会話は途切れた。


商人は、匙を動かしながら、

ふと思う。


もし、

誰かが安い道を示したら。


もし、

そこを通れると言い出したら。


そのとき、

自分はどうするだろうか。


少し考え、

すぐに答えを出す。


――行かないな。


理由は、はっきりしない。

だが、

行かないという判断だけは、迷わない。


食事を終え、

商人は部屋へ戻った。


窓から外を見ると、

街道に灯りが連なっている。


荷を運び、

人を動かし、

値を決める。


少し高くても、

回る世界。


商人は、

その中で生きている。


値段の違いは、

ただの数字だ。


だが、その数字の裏に、

使われない選択があることを、

彼は知らないまま、

今日も眠りについた。

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