第一章 第5話|学園という制度
学園は、よく出来ている。
少年は、そんなことを考えながら中庭を歩いていた。
授業の配置、課題の量、試験の間隔。
どれも無理がなく、長く続けるために整えられているのが分かる。
特別に意識しなくても、
学ぶべきことと、今は触れなくていいことが、
自然と分かれていく。
それが、この学園のやり方だった。
基礎課程。
専門課程。
研究課程。
進むにつれて、扱う内容は深くなる。
だが同時に、
扱われなくなるものも増えていく。
樹海は、その中でも分かりやすかった。
授業で名前は出る。
歴史の中にも登場する。
それなのに、
詳しく語られることはない。
少年は、掲示板の前で足を止めた。
研究発表の案内が並んでいる。
魔法理論。
古代遺構。
交易史。
どれも、しっかり題目が立てられ、
調べる範囲が明確だ。
樹海という言葉は、やはり見当たらない。
不思議ではなかった。
理由は、あるのだろう。
そう思わせるだけの空気は、確かにある。
だが、その理由が何なのかを、
少年は具体的には知らない。
危ないらしい。
面倒らしい。
触れないほうがいいらしい。
それ以上のことは、
誰も説明しないし、
自分も聞いたことがない。
「選ばれない、ってだけか……」
少年は、小さく呟く。
禁止されているわけではない。
調べてはいけない、とも書かれていない。
ただ、
最初から選択肢に入らない。
それは、この学園に限った話ではないのだろう。
王国全体が、そういう態度を取っている。
誰かが決めた、という感じもしない。
だが、誰も変えようともしない。
長い時間をかけて、
そうするのが当たり前になった。
少年は、先ほどの講義を思い出す。
――基礎課程では扱わない。
――整理が十分ではない。
それは、もっともらしい説明だった。
反論できるほどの知識も、自分にはない。
それでも、
一つだけ、はっきりしていることがある。
ここには、
「知らないままでいい」
という判断が、積み重なっている。
学園の中庭では、生徒たちが笑っている。
課題の愚痴、次の試験、放課後の予定。
誰も困っていない。
樹海について語られないことで、
生活に支障が出るわけでもない。
だから、この状態は、
ずっと続いてきたのだろう。
少年は、ふと視線を上げる。
高い塔が、学園の奥にそびえている。
あの上からなら、
街の向こうまで見渡せるはずだ。
なぜ、あそこだけが残ったのか。
なぜ、触れられないままなのか。
問いは、まだ曖昧だ。
答えを探すほどの形も、持っていない。
それでも、
学園という制度が、
その距離を保ち続けてきたことだけは、
少しずつ、分かり始めていた。




