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名を持たぬ魔女  作者: ささこ
暦500編

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第一章 第2話|整いすぎた歴史

次の講義は、同じ教師が続けて担当していた。

内容も、引き続き国史だ。


少年は席に着きながら、先ほどの授業内容を思い返していた。

帝国の衰退、樹海という天然の障壁、王国が大きな戦禍を免れた理由。

どれも理解しやすく、覚えやすい。


――試験向きだ。


そんな感想が、先に浮かぶ。


「さて、前回の続きです」


教師はそう前置きして、書板に年表を書き出した。

年代ごとに区切られた出来事は、驚くほど滑らかにつながっている。


「この時代の特徴は、“大きな転換が起きなかった”ことです」


生徒たちの視線が集まる。


「帝国は衰えましたが、急激な崩壊ではありません。

 王国も、決定的な勝利を収めたわけではない」


教師は淡々と語る。


「つまり、均衡が保たれたまま、時代が移り変わったのです」


その言葉に、何人かの生徒が頷く。

少年も、特に違和感は覚えなかった。


戦争がなく、国が残り、世界が続いた。

それは、理想的な歴史の形にも見える。


「この均衡を支えた要素として、

 当時の地理的条件や外交判断が挙げられます」


教師は、すでに昨日見た図をもう一度示した。

国境、山脈、河川、そして――樹海。


「無理に踏み込まず、刺激しない。

 当時の為政者たちは、慎重でした」


慎重だった。

そう言われると、納得がいく。


英雄的な決断ではなく、

劇的な勝利でもなく、

ただ、穏当な判断の積み重ね。


「結果として、大きな混乱は起こらなかった」


教師はそこで一度、言葉を切った。


「この時代の歴史は、派手さに欠けますが、

 安定という観点では、高く評価されています」


生徒の一人が、感心したように息を吐く。


「平和だったんですね」


教師は否定しなかった。


「少なくとも、記録上は」


その一言は、さらりと流された。

誰も深くは掘り下げない。


少年も、ノートに書き写しながら思う。

確かに、よく出来た話だ。


出来すぎている、と言ってもいい。


衝突は整理され、

失敗は要因に分解され、

不可解な部分は「環境」や「制度」に置き換えられている。


理解しやすい。

疑問を挟む余地がない。


「当時の資料も、比較的多く残っています」


教師は、そう付け加えた。


「断片的ではありますが、

 全体像を組み立てるには十分です」


少年は、ふと顔を上げる。


断片的。

だが、全体像は十分。


その組み合わせに、わずかな引っかかりを覚えたが、

すぐに打ち消した。


考えすぎだろう。


教師は、最後にこう締めくくった。


「この時代を理解するうえで重要なのは、

 “何が起こったか”よりも、

 “何も起こらなかった理由”を整理することです」


なるほど、と教室に静かな納得が広がる。


鐘が鳴り、講義は終わった。


生徒たちは、次の授業へ向かって立ち上がる。

少年も流れに身を任せながら、ノートを閉じた。


整っている。

きれいだ。

覚えやすい。


それなのに、

どこか、息苦しい。


そんな感覚が残った理由を、

この時点では、まだ言葉にできなかった。

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