余章|村の、その後
村は、残っていた。
焼け落ちた家はある。
戻らなかった者もいる。
だが、村そのものは、地図から消えていない。
人々は、少しずつ戻ってきた。
畑を起こし、屋根を直し、
壊れた柵を、同じ場所に立て直す。
誰も、声高に語らない。
あの夜、
なぜ子どもたちだけが戻ったのか。
なぜ帝国兵が去ったのか。
なぜ、それ以上何も起きなかったのか。
理由を知ろうとする者はいない。
「助かったな」
それだけで、会話は終わる。
子どもたちは、大きくなった。
あの夜のことを、覚えている者もいれば、
夢のように曖昧な者もいる。
ただ、一つだけ共通している。
樹海のほうを向くとき、
誰もが、自然と足を止める。
「近づくな」と言われたわけではない。
だが、誰も踏み込まない。
森は、変わらない。
鳥も鳴き、風も通る。
それでも、
“奥”だけは、
今も奥のままだ。
村の老人は、夕暮れに座り、
子どもたちを眺めながら言う。
「昔からな、
あそこは、助けを求める場所であって、
奪いに行く場所じゃない」
理由は、語らない。
語らなくても、
村は続いている。
夜、灯りが消えるころ、
誰かがふと、森のほうを見て、
頭を下げる。
祈りではない。
感謝でもない。
ただ、
ここに在れることを、
確かめるように。
村は、今日もそこにある。
それだけで、
十分だった。




