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名を持たぬ魔女  作者: ささこ
暦200編

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第七章 第4話|衰退

失敗は、一度では終わらなかった。


規模を縮め、

対策を変え、

場所を変えて、

帝国は試みを続けた。


そのたびに、

「敵にやられた」記録は残らない。


戦死者の名簿は、増えない。

だが、部隊は減る。


説明のつかない欠員が、

静かに積み上がっていった。


「これ以上は、割に合わない」


誰かが、そう言った。


だが、その声は記録に残らない。

残るのは、次の計画書だけだ。


学者は、理論を修正する。

魔術師は、護符を改める。

将校は、撤退条件をさらに厳しくする。


合理的だった。

無謀ではない。


それでも、結果は変わらない。


成功しない試みは、

やがて国力を削る。


人が減る。

資源が減る。

時間が減る。


だが、最も削れたのは、

確信だった。


「我々は、理解できるはずだ」


その前提が、少しずつ揺らぐ。


それでも、止まれない。


止まれば、

これまで失ったものが、

すべて無意味になる。


だから、続ける。


帝国は、前に進む国だった。

進まない選択を、知らなかった。


やがて、侵攻は鈍る。


攻める力がないのではない。

攻める理由が、失われていく。


国境線は、動かない。

敵は、勝利を宣言しない。


ただ、帝国だけが、

少しずつ小さくなる。


ある日、将校は地図を見つめながら、

ふと疑問を口にした。


「……なぜ、越えなかった国がある」


答えは、出なかった。


資料を漁っても、

記録を辿っても、

そこに明確な理由はない。


ただ、

越えなかった、という事実だけがある。


「恐れたのか」


違う。


「無知だったのか」


それも違う。


帝国は、理解しようとした。

だから、越えた。


越えなかった国は、

理解しようとしなかったのかもしれない。


その差が、

今になって、重くのしかかる。


帝国は、まだ滅びてはいない。


だが、

以前のように進むこともできない。


誰も、樹海の名を公に語らなくなった。

報告は、別の言葉に置き換えられる。


――非効率。

――割に合わない。

――戦略的価値なし。


そうして、

一つの線が、地図から消える。


境界は、越えられなかったのではない。

越え続けた結果、

進めなくなっただけだ。


帝国は、衰退する。


敗北したからではない。

間違え続けたからでもない。


理解できると信じ続けたからだ。

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