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名を持たぬ魔女  作者: ささこ
暦200編

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第七章 第1話|積み上がる報告

帝国の執務室には、地図が並べられていた。


一枚ではない。

複数だ。


国境線、山岳地帯、森林地帯。

印の位置はばらばらだが、共通点がある。


「……またか」


中級将校は、報告書に目を落としたまま呟いた。


部隊が戻っていない。

戦闘記録がない。

敵影も確認されていない。


それでいて、壊滅とも書かれていない。


「消えた、という表現は使うな」


上官は、いつもそう言う。


代わりに使われる言葉は、決まっている。


――行動不能。

――進行停止。

――以後、続報なし。


どれも、現実を正確には表していない。

だが、他に書きようがなかった。


「地点は?」


将校の問いに、部下が地図を指す。


「ここ、そして……ここもです」


森。

深い緑で塗られた一帯。


一箇所ではない。

だが、線で結ぶと、ある範囲に重なる。


「同じ森か?」


「正式名称は、地域ごとに異なります。

 ただ……性質は似ているかと」


将校は、黙って地図を見つめた。


資源があると聞いた。

迂回路として使えるとも。


敵が守っているわけではない。

魔物が溢れているという報告もない。


それでも、進めない。


「偶然では済まなくなってきましたな」


同席していた官僚が、慎重に言った。


「偶然なら、理由がある」


将校は、そう返した。


「理由がないのに、結果だけが揃う。

 それが一番、厄介だ」


報告は、今日だけではない。

昨日も、一昨日も、その前も。


小規模な偵察。

補給路の確認。

回り道の探索。


どれも、途中で止まる。


「損耗は?」


「……確認できません」


戦えば、損耗が出る。

逃げれば、痕跡が残る。


だが、そうではない。


人も、物も、

先へ進まなかった。


将校は、机に手を置いた。


「いずれ、説明が必要になる」


それは、予感ではない。

時間の問題だ。


このままでは、

進軍できない理由を、

誰かが言語化しなければならなくなる。


帝国は、理由なく立ち止まる国ではない。


だからこそ、

立ち止まっている今が、

異常だった。


将校は、次の報告書に手を伸ばす。


そこにも、

同じ言葉が並んでいた。


――進行、途中で停止。

――理由、不明。


積み上がるのは、敗北ではない。

だが、勝利でもない。


その中間が、

確実に帝国の足を止めていた。

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