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名を持たぬ魔女  作者: ささこ
暦200編

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第六章 第3話|見てはいけないもの

偵察命令が出たのは、翌朝だった。


樹海の縁まで。

踏み込まず、距離を保ち、様子を見る。


命令は、それだけだった。


「……縁、ですか」


兵士は思わず聞き返した。


「そうだ。

 中に入るな。

 だが、確認はしろ」


矛盾しているようで、

これまでの命令と同じだった。


兵士たちは、慎重に進んだ。

草を踏む音すら、必要以上に大きく感じる。


樹海が近づくにつれ、

空気が変わる。


冷たいわけでも、重いわけでもない。

ただ、均されていく感覚。


音が、減っていった。


鳥の声が途切れ、

虫の羽音が遠のく。


誰かが、無意識に息を潜めている。


「……静かすぎる」


誰も否定しなかった。


樹海の縁に到達する。


そこから先は、影が違う。

光は届いているのに、

奥行きだけが、測れない。


「ここまでだ」


小隊長が、手で制した。


兵士は、足元を見た。


折れた槍が落ちている。

錆びていない。


少し離れた場所には、

無傷の盾。

血の跡はない。


「……帝国の装備だ」


誰かが言った。


確かに、敵のものだ。

だが、戦った形跡がない。


斬られてもいない。

焼かれてもいない。


置いていかれた、という表現が最も近い。


「戻らなかった部隊……」


その言葉は、最後まで言われなかった。


森の奥を見ても、

何も動かない。


魔物も、兵も、

影すらない。


だが、

「いなかった」のではない。


「ここには続いていない」

そう感じられた。


兵士は、喉の奥が乾くのを覚えた。


戦場なら、敵意がある。

敵意があれば、身構えられる。


だが、ここには敵意すらない。


拒絶も、歓迎もない。


「……戻るぞ」


小隊長の声は、少しだけ掠れていた。


誰も反対しない。

全員が、同じ感覚を共有していた。


ここは、

踏み込む場所ではない。


撤退の途中、

兵士は一度だけ、振り返った。


樹海は、変わらない。

何もしていない。


それでも、

確実に、何かが線を引いていた。


それを越えた者が、

どこへ行ったのか。


答えは、ない。


だが、

知ろうとしてはいけない。


兵士は、

初めてその命令の意味を、

身体で理解した。

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